採点:★★★☆☆
経済学って科学なの?と思っている人におススメ
経済物理学(エコノフィジックス)の日本における開拓者による一冊。フラクタルに興味を持ち、禁断の市場(拙ブログ)のマンデルブロにも師事したこともあるようだ。
「つながり」を突き止めろ(光文社新書)(拙ブログ)にもあったが、科学の王様物理学の侵食力は凄まじい。とはいえ、本書の出版は2004年であり、その後日本語では専門書しか出ていないようである。あんまり研究は進んでないのかなぁ。
■あらすじ
自然科学の様々な分野で天才性を発揮していたマンデルブロが経済学を専門としていることがブラック・スワンのタレブには不思議だったようで、「なぜ、あなたのような天才が経済学を研究しているのか?」と尋ねた。マンデルブロは「データだよ。そこにはたくさんの興味深いデータがあるんだ」と答えたらしい。
本書の著者がマンデルブロにその専門を尋ねたときも、「経済学」と明確に答えたのだ。非合理的であるところの人間がとる非常に複雑な行動のデータが市場には沢山ある。そのデータを見つめることで、「フラクタル」という物理学をひっくりかえすほどの概念が生まれたのだ。
本書では、「詳細な現実のデータを物理学の手法を用いて詳しく分析し、実証的に本当に起こっている経済現象を解明する」という経済物理学がどのように生まれたのか、その活用によって何が分かったのか、今後どのような発展が望まれるかについて書かれている。
■感想
ルービニの大いなる不安定(拙ブログ)にもあったが、市場がその成り立ちからして不安定であることは様々な面から確かめられているようだ。ではなぜ市場が安定だなどと考えることになったのだろう??著者はその原因をアダム・スミスに由来する需給・曲線にまで遡り、以下のように評価する。
万有引力の考え方が目に見えない重力を仮定することで大成功したことに習い、目に見えない力の存在を想定して人間の行動まで説明しようとした点です。
この需要供給の考え方が誕生したのは18世紀後半、ちょうどアメリカが独立した頃です。当時は万有引力によって惑星の運動を説明した古典力学が全盛で、あらゆるものの動きは力学で説明できるとすら信じられていたようです。その結果として、人間の動きも背後に潜む見えない力で説明しようという発想が生まれたわけです。
惑星の間に働く重力のように、市場にも「見えざる手」の力で均衡すると考えたということか。市場に重力が上手く働かないことは何度も確認されているのだから、重力がないことを想定したシステムを構築すべきだろう。
第2章「エコノフィジックスのツール」フラクタルの節の解説で、タレブがプラトンのイデアを例に用いていた理由が良く分かった。金融工学に興味のある人は、不透明な時代を見抜く「統計思考力」⇒本書⇒禁断の市場⇒大いなる不安定⇒ブラック・スワン(+強さと脆さ)という順番で読むとわかりやすいと思う。
本書には市場介入がどのような影響を与えるか、インフレとデフレの本質的な違いなど、現在のホットイシューに関する記述もあるので、やや古い本ではあるが一読の価値はあると思う。