採点:★★★★☆
人間の進化はもちろん、健康食品や豊かな食生活に興味があるヒトにおススメ
今年は進化学の本が面白い。BORN TO RUN (拙ブログ)に始まり、一万年の進化爆発(拙ブログ)、黒人はなぜ足が速いのか(新潮選書)や脳を鍛えるには運動しかない!(拙ブログ)も面白かった。本書と併せて読めば、学生時代に習った”進化”の概念は随分塗り替えられるのではないか。
火の賜物―ヒトは料理で進化した (2010/03/26) リチャード・ランガム |
■あらすじ
われわれはどこからきたのか?そしてどこへ行くのか?
本書は前半の質問に答えるために書かれている。ダーウィンは「進化」のプロセスに注目したが、著者は「進化」のきっかけを追い求める。何がアウストラロピテクス⇒ホモ・ハビリス⇒ホモ・エレクトスという「進化」を引き起こしたのか。「狩猟」と「肉食」では、アウストラロピテクス⇒ホモ・ハビリスの説明にはなるかもしれないが、ホモ・ハビリス⇒ホモ・エレクトスとしての説明としては弱い。著者はその答えを「火」と「料理」に求めた。
「料理」が現代の我々の身体にどのような影響を与えるのか、つまり、人類が如何に「料理」に対して最適化された設計をしているかを示す第一章から始まる。その後料理がいつ、どのように”発見”されたのか、その発見によって我々の身体や社会にどのような変化が起こったかが推察されている。「料理」を軸に人間とその社会について考える一冊。
■感想
エコ、ロハス等のバズワードとともに最近もてはやされているオーガニック野菜を好んで食べる人がいることは知っていたが、できる限り生の食材のみを食べようとする人がいるとは知らなかった。当然当人たちはそれが人類の自然な姿だと思っており、総じて痩せている。(話はそれるが、オーガニック食品が好きな人は是非地球最後の日のための種子(拙ブログ)を読んで欲しい)
彼らの”思い”は180度間違った方向へ向かっているようだ。人間の身体は生の食材を消化するようには出来ていない。消化しやすい、料理された食材から効率よくカロリーを摂取することで、消化に必要な時間・エネルギーを節約し、脳を大きくすることが出来たのだ。体重に比してこれほど大きな脳を持つことが出来たのは人間だけであり、また、料理をするもの人間だけである。料理は極めて人間らしい、自然な行為なのだ。
私たちは生食だけでは健康になれない。生食だけに頼る文化も存在しない。私たちの体の適応状況を見れば、生の食物を容易に消化吸収できないことがわかる。ベジタリアンといえども、食物に熱を加えて健康を維持している。私たちは、肉食動物というより、料理者である。生食主義が減量に向いているのも無理はない。
本書では様々な研究が引用されているのだが、それがどれも興味深い。MRIもCTもない200年前に生きた人間の胃を『直接』観察した例などは、なかなかにショッキングである。英語版Wikipediaへのリンクを貼っておくが、こういう話題が苦手な人は読まないほうが良い。(写真はないのでご安心をWikipedia)
あまりに全ての原因を「料理」に押し込めようとし過ぎていると感じる部分がないではないが、わくわくしながら読める一冊。参考文献リストも豊富なので、興味のある人は参考になるのでは。