採点:★★★★☆
「つながり」好きな人も「つながり観察」が好きな人にもおススメ。研究者の考え方、生き方にも触れることができる
ネットワーク・サイエンスの分野で面白い本がぽろぽろとでてきた。群れのルール(拙ブログ)は見聞きしたことの無い事例に驚きっぱなしだったが、本書は副題に「入門」とあるようにネットワークサイエンスが如何に発展してきたか、その中で一研究者である著者がどのように研究に取り組んできたかもわかる良書。一流の学者が最先端の研究を簡潔に解説してくれる新書の真骨頂。
「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書) (2010/10/15) 安田 雪 |
■あらすじ
9・11の犯人特定にネットワーク・サイエンスがどのように活用されたかを解説する第一章「対ゲリラ戦略と米軍マニュアル」から本書はスタートする。「友人・知人をみれば、その人がわかる」とあるように、その人がどのような人とどのような頻度でどの程度の付き合いをしているかがわかれば、その人の多くのことが分かってしまう。会社のメールを見れば、誰の営業成績が良いのか、社内のストレスは深刻な状況になってはないか、などが推測可能となる。これらのような人と人との「つながり」を研究するのがネットワーク・サイエンスであり、本書はその発展の歴史と応用方法を解かり易く解説してくれる。
■感想
本書の冒頭では米軍を例に出しながら、ネットワークと組織の関係性を説明しているのだが、これが非常に面白い。最も厳格に管理され、強固な指令系統を築いていると思われる「軍隊」でさえ、硬直的な組織からネットワーク組織へと変わりつつあるようだ。従来型の組織とネットワークの違いを、米軍のマニュアルを要約しながら、著者は以下のように説明する。
組織は階層構造によって権威を保つが、ネットワークではメンバーの持つ知識や技能が権威の源泉となる。会社、地域、人種、同世代といったいわゆる単純な社会的な分類枠組みのカテゴリーをこえて、ネットワークは、人々、小集団、グループを結びつける。ネットワークのメンバーは、上司の指示命令によってではなく、相互の責任感に基づいて任務を遂行する。また、ネットワークは、必要に応じて内部のチームを再構築する。場合によっては、破壊もいとわない。
上司や会社の言うことを粛々とこなすことが美徳とされ、その見返りとして階層構造における権威を与えていた従来の日本企業型組織は、このような組織への移行は非常に困難だろう。また、組織だけでなく個人としての日本人も、自らが頭となり考えることは苦手ではないか。社会に出るまでそのような訓練をしていないのだから当然か。。。
日本人に限らず、人類にとってこのような「ネットワーク型組織」は心地よいものとなるのだろうか?400万年前にアフリカに生まれ、世界中に散らばって行った人類は1万年前に農耕を開発して以来、少数のリーダー・族長とそれに従うフォロワーという組織に慣れている(進化している)んじゃないかな?ミツバチのように、特段リーダーから指示を受けることなく全体が有機的に動くことが可能なのだろうか?そのような組織、集団を形成している人類っているんだろうか?ベトナム戦争時のベトコンの指示系統ってどうなってたんだろう?
面白い本は更なる疑問を次々と与えてくれる。読んでない本が机に山積みなのに、またこの分野をまとめ買いしそう。
ネットワーク科学者は、人間の行為や嗜好、信条を決定するのはその人の収入や性年代などではなく、「その人が誰と共に過ごしたか、誰に取り囲まれているか。」であると信じている。確かに、我が身を振り返ってみても、友人関係の希薄さや、付き合いのある人間の偏りから、かなりのことがバレ手しまうような気がする。
ネットワーク研究ではプライバシーの問題は避けて通れない。プライバシーを侵さないように如何に研究を進めるか、「メールは見られていると思え」など、この領域に関する言及も興味深い。