採点:★★★☆☆
「イスラエルとアメリカって何で仲いいの?」という人におススメ。イスラエルを概観するのに適した一冊
イスラエル関連本は山ほどあるが、古代の人々の名前や地名がそもそも覚えにくくて中々頭に入ってこなかった。本書は過去の歴史は概観にとどめ、アメリカ(のロビー)との関係を中心に現在にスポットを当てており、同じく新潮新書のイランはこれからどうなるのかと併せて読めば、中東関連のニュースが理解しやすくなること請け合い。
それにしても今月の新潮新書は面白い。上記2冊に加え、異形の日本人も楽しめた。しかし、アマゾンには画像すらない。。。
イスラエル―ユダヤパワーの源泉 (新潮新書 383) (2010/09) 三井 美奈 |
■あらすじ
アメリカとの関係をその建国時から振り返りながら、イスラエルがどのような国であるかについて解説する一冊。著者は読売新聞のエルサレム支局長として2006~2009年までの3年間をイスラエルで過ごしている。実際のイスラエルの生活がどのようなものであるのかについても触れられており、「テレビで見る遠い国」で実際にどのような生活が営まれているかについても知ることができる。イスラエルの歴史についてはざっくりとしか触れられていないが、物語 エルサレムの歴史を読む前に本書を読んでおいた方が理解しやすいと思う。
■感想
イスラエルとアメリカの関係は想像以上に濃いものとなっている。イスラエルを支持しているのはユダヤ系移民だけでなく、ブッシュJr大統領の支持母体としても知られている福音派(エバンジェリスト)もイスラエルの熱烈な応援者となっており、その数とパワーは絶大だ。彼らは聖書に徹底的に忠実であり、エルサレムはユダヤ人に「与えられた土地」であると信じている。
両国の関係の深さは数字が物語っている。イスラエルはNATO加盟国でもなく、米軍基地を引き受けている訳でもない。思いやり資産を謙譲し続け、基地の移転の議論すらできない日本とは大きな違いである。
同国建国から2009年までの61年間で、米国が行った軍事・経済援助の総額は約1620億ドル。同年まで過去30年間の平均額は29億5065万ドルにのぼる。年間対外援助の総額の1割を超える。
日本ではあまり馴染みのない「ロビー」だが、アメリカでの影響力は計り知れない。それはアメリカの政治体制と深く関係している。アメリカは二大政党制だが、その党員拘束力は弱い。議員は自ら資金を集めて選挙戦を戦うので、資金の供給元には強い態度が取りづらい。また、アメリカの選挙は日本の比ではないほどにお金が掛かる。この当たりのロビーの仕組みや活動内容、その目的については当事者のインタビューを交えながらまとめられているので、是非本書に当たってみて欲しい。
イスラエルロビー以外にも大きな影響力を持った団体や組織はある。しかし、彼らはやはりその他の団体とは異なるのだ。
彼らが特殊なのは、行動の結果が中東紛争に直結し、影響が世界に広がる点にある。
イスラエルの建国宣言は1948年だが、その当時の「国作り」の描写も興味深い。著者がインタビューした女性は、スプーンを拾うのにも使用人を呼んでいたようなお嬢様だったが、理想郷建設に共鳴し、国作りへ参加した。そこでの生活は素手で土地を耕し、チフスで生死の境をさまよう過酷なものだったようだが、彼女にとっては良い思いでのようだ。高度成長期を終え、すっかり豊かになった日本に生まれた我々世代にはなかなかその気持ちは想像できない。
でも、つらくはありませんでした。私も仲間も若かった。新しい国を作るんだという理想に燃えていたわ
「国を思う気持ち」を支えているのは、ユダヤ人が歩んだ苦難の歴史なのかもしれない。
ある元将校は、「我々ユダヤ人は、敵に囲まれている。殺される前に殺しに行く。嫌われることなど厭わない」と冷厳に言った。「抵抗もできないまま、ガス室に送られる弱者には、もう二度とならない」。固い決意が底流にある。
自分は広島出身なので、親族が原爆で亡くなっている友人も何人かいたが、このような思いは聞いたことがない。ユダヤ人と日本人で何が違うのだろうか。