官僚は犬である? 『「官僚」がよく分かる本』 寺脇研

2010年9月12日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

「官僚」の生態に興味がある人におススメ

日垣隆さんがツイッターで薦めていたので購入。著者である寺脇研氏は「ミスター文部省」「ゆとり教育の海の親」等とも呼ばれ、あまり良い評判を聞いたことがなかったが、そのようなレッテル張りには意味が無いとつくづく思った。本書では「官僚」がどのように考え、どのように行動する人たちなのかが丁寧に描かれている。

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「官僚」がよくわかる本
官僚の生態がわかれば、政治の仕組みがみえてくる! (アスコムBOOKS)

(2010/08/30)
寺脇 研

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■あらすじ

「ミスター文部省」と呼ばれた著者が内部から見た「官僚」について、様々な角度から分析する。官僚がこれほどまでに嫌われることになった経緯、「良い官僚」と「悪い官僚」の見極め方、さらには官僚に使い方についての知見が得られる。国民を「飼い主」、政治家を「ドッグトレーナー」、官僚を「犬」に見立てながら、様々な事例を用いて平易な言葉で書かれているので、官僚理解を始めるには最適の一冊。

■感想

大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ」問題が話題になったのは、1998年。当時高校生だった自分も「何て下品なやつらだ」と思っていたが、彼らも当然我々と同じ人間であり、「官僚」という悪の組織がいるわけではない。そもそも、そのような「悪いこと」をしたくて官僚を選ぶ人間はいないだろう。キャリア官僚になれる能力があれば、もっと簡単な方法がありそうなものだ。現在の若手官僚たちの士気もまだまだ下がっていないと著者は言う。

今、官僚の士気が下がっているというのは嘘で、実は前向きに考える若い官僚の士気はとても上がっています。特に民主党政権になってから一方的な官僚バッシングが抑制された結果、20代30代の官僚たちの多くは張り切っています。

大学の同級生の中で官僚を目指していた奴等を振り返って見ても、「真面目」なやつが多かったような紀がする。

当然官僚の「悪い面」もきっちり解説されており、「旧内務省名簿」や「特命全権大使」の話は、顕著な例だろう。このように権力・権威に固執することを助長する仕組みは即刻変更が必要だ。犬である「官僚」の仕事は、ドッグトレーナーである「政治家」の求めることを的確に遂行することであることを、著者は何度も強調する。

総理大臣や各大臣の言うことを聞いて「これをやってくれ」と言われたら「はい、やります」と言う人だけが、官僚たる資格があるのです。

政治家の言うことが違うと思っても、その人たちには全部従わなければいけないというわけです。

 もちろんデータを上げたり政策を提案するのはどしどしやる必要がありますが、大臣や副大臣、政務官に隠れて自分たちだけで何かを決めたりするのはいけません。また、政治家が決定したことについて、それをネグレクトしたり骨抜きにしたりすることはあってはならないのです。そこを完全に割り切ってこそ、「君君足らずとも 臣は臣」になります。

官僚たちの役割も大きく変わってきている。欧米へ追いつくことが明確な目標であった時代であれば、中央集権の方が上手く行くが、先進国へのキャッチアップが終わってしまった日本の課題は以前ほどには明確ではない。

ドッグトレーナーがしっかりと「行き先」を教えてあげなければ、犬もどうやって走ればいいか分からない。「犬」に悪いイメージがついたからといって、「自分で走る」というドッグトレーナーは信用できるのか。「犬」に対する態度から、ドッグトレーナーを見極める方法も有効かもしれない。

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