昨年6月に発行された鹿島茂の『パスカル パンセ抄』がそろそろ文字通りクサくなってきた。1年近くも我が家のトイレの中にあったのだ。用をたすときにパッとどこかを開いて1ページだけ読むのには最適にして最高の本だ。雑誌の人生相談のようであっても鹿島文学になっているところがシブい。たとえば「精神の成長と差異の発見」という1ページ。
人は精神が豊かになるにつれて、自分の周りに独創的な人間がより多くいることに気がつく。しかし、凡庸な人をいうのは人々のあいだに差異があることに気づかない。
ううむ、なーるほどと、納得したりするのだが、その「納得すること」という1ページには
人間というのは概して、自分の頭で見つけた理由のほうが、他人の頭の中で発見された理由よりも、深く納得するものだ。
たしかに教育やビジネスの現場では、説得的な説明よりも質問による誘導のほうが優れている。とはいえ、このような判りやすい人生訓やビジネス名言のような文章ばかりではない。「邪悪と偉大さ」という1文は。
邪悪そのものの中の人間の偉大さ、邪悪の中から、素晴らしい規則性を引き出す術をこころえており、そこから愛のタブローを描きあげたという点において、人間は偉大なのである。
奥が深い!つまり言っていることが良く判らないのだが、それはそれで本を読む楽しみでもある。鹿島茂の『パスカル パンセ抄』は、まことにもってトイレに常備する本としてはおススメなのだが、そろそろ入れ替える時期が来た。そこへ彗星のように現れたのが本書『三十一文字で詠むゲーテ』である。
ゲーテとはもちろんヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。ドイツの詩人、劇作家、小説家、自然科学者、政治家、法律家である。子どもの頃『若きウェルテルの悩み』をシャルロッテが登場するところまで読んだことがある。母親にアイザック・アシモフの新刊を買って貰うためにはそうするしかなかったのだ。シャルロッテ登場から先はこの文章を書きながらWikipediaでいま読んだ。ともあれ、本書は今年度のトイレ本として君臨するであろう。
できるけどしたくないこと
したいけどできないことで
一生(ひとよ)過ぎゆく
うはは、ゲーテ面白いじゃん。
平等と自由をともに公約す
そは空想家
はたまた山師
某国の某たそがれ政党はこの夏に向けてしっかりと心に刻むように。
国情のそぐわぬ改革
外国の試みまねて
なんの意味ある
ゲーテが21世紀の某国政治を予想したのではない。著者による解説によるとゲーテは「フランスできわめて必然的に起きた事件(フランス革命)と似たものを、作為的にドイツで起こそうとしている輩を、わたしは無視することができなかった」といっているとのことなのだ。
わが友に迎えるならば
自らを
笑いとばしてしまえる男
男の話題ばかりではない。女性のトイレにもおススメだ。
いさかいを超えて
夫婦はわかりあう
ひるまず乱せその場の空気
こんな雑なレビューを書いて人生を浪費していいのかと悩むのだが、ちょうど良い文章が目に入る
人生で迷わぬ秘訣
教えよう
まともな道を歩まねばよい
すっかりゲーテが好きになってしまった。ゲーテはさらに続けて
愉しんで過ごさず
なんの人生か
人の命のかくも短き
この本も買いですなあ。それにしても恐るべし飛鳥新社。いまや我が家のトイレ常備本5冊中、3冊が飛鳥新社である。