ハーバード大学を卒業したものの自分の進むべき方向を見失っていた青年が刑務所図書館で働いた2年間の奮闘記だ。受刑者が刑務所内の図書館をどのように活用しているかなど今まで考えたこともなかった。本ブログ読者のほとんどとは無縁な世界の話だろうが、エピソードが面白いだけでなく、刑罰のありかたについても考えさせられる内容なので読む価値ある本だ。
筆者はユダヤ系アメリカ人の青年。ユダヤ教のラビもしくは医者・弁護士になるべくハーバード大学を卒業した。しかし、本当に自分のやりたいことが分からずに悩んでいたところ、ボストンの刑務所図書館の募集広告に出会った。これが本書の始まりである。
ちなみに意外と知られていないが、受刑者は刑務所内で読書をする権利が法律によって保障されている(日本では「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の第49条2」が読書権を保障しており、ホリエモンが2年半で2,000冊の本が読みたいと豪語できるのはこのためだ)。刑務所長は法に基づき受刑者が知的・教育的・娯楽的活動を行えるよう援助しなくてはならない。その援助の一環が刑務所内に図書館の開設となる。
本書のタイトルを見て、もし受刑者が真面目に本を読んで更生する姿を想像したとすれば、それはただの幻想。現実はハードカバー本の角が凶器として使われていることを本書が伝えてくれる。刑務所内で真面目に本を読むのはマルコムXなど1,000人に1人くらいで、残りの999人は本なんか読まないか、図書館を憩いの場もしくは秘密のメッセージのやり取りの場としてしか活用していない。ちなみに筆者の刑務所図書館員としての仕事の一つは、貸し出し本の間に挟まっている「カイト」と呼ばれる秘密のメッセージを見つけることだったようだ(もちろん中には本書で紹介されている通り更生に向かう人もいる)。
著者が紹介するエピソードの中には皮肉なものもあり、読了後は刑罰のあり方について考えさせられる。例えば、筆者が刑務所外で恐喝にあった際の恐喝者が知り合いの受刑者だった時のエピソードだ。恐喝者は、恐喝しようとしている相手が以前いた刑務所の図書館員だったことに気づいた。この瞬間、筆者はこの元受刑者が恐喝を思いとどまってくれることを夢見る。しかし、実際は、怒涛・からかわれた上お金を盗まれるという現実がまっていた。
筆者は、自身が体験したエピソードをユーモラスに書いており、読者を楽しませてくれる。人生の進むべき方向を悩んでいる割には文章が上手く、次回作が楽しみだ。