某一流メーカーの会議室――。自社イメージを重んじる、つまり、すっごくうるさい会社が監修する単行本の企画がまとまろうとしています。隣にいる女上司をちらり見やれば、あんたは黙ってなさいよ! と目で御されちゃった。ハハっ。どうせ、私が担当するのよね。複雑な想いを煎茶で流し込めば、腹には苦さしか残りませんでした。
似たような本が溢れる出版業界。他にはないコンテンツで、世間をあっと言わせたい! なーんて、情熱も今は昔です。著者の無理難題もアルカイックスマイルで処理し、上司の命令に逆らえるはずもなく。やらされ仕事で、目の下真っ黒。デートする暇もありません。勝負パンツを今宵もひとり、寂しく脱ぎながら思ったのでした。会社員も結局は上司の下請けよね。「本当につくりたいモノ」を本にしたい……。
モチベーションをピンヒールで底上げする日々で、期せずして出合って、惚れ込んで、このたび1冊にまとめたのが、株式会社enmonoの二人(三木康司さんと宇都宮茂さん)が生み出した「マイクロモノづくり」という産業理論です。それは『僕らの時代のライフデザイン』(ダイヤモンド社)で新しいワークスタイルを提案し、注目を浴びているフリーエディター米田智彦さんの進言からはじまりました。「脱・下請け」を標榜し、町工場のモノづくり支援を行っている愉快なコンサルティング会社があるんです、って。「脱・下請け」それに「脱・上司」。何それ、ぐっときちゃう。enmonoに会いに行きました。
「マイクロモノづくり」は、大量生産・大量消費とは対極の考え方。あらゆるモノが行き渡り、ニーズが多様化している今、マイクロな市場で「本当につくりたいモノ」を必要な数だけつくって、自分たちで売って、消費していくというビジネスにも商機がある。『MAKERS』がブームだけど、もっと日本の産業構造にフィットしたセオリーがあります。インフラの充実で、大資本を持たなくたって大手メーカーみたいなモノづくりを実現できるんだから、「自分が本当にやりたいコト」をして、みんながワクワクしていけば、もっと楽しいですよね。enmonoは取材や経験から得た、「自分が本当にやりたいコト」をするための企画の生み方や、資金集め以外にも使えるクラウドファンディングの活用法、それに本当に必要な仲間の見つけ方などをお伝えしたくて。
「三木さん、宇都宮さん! それって製造業だけでなく、本づくりも同じよね?」
「はい、モノづくりの“モノ”はプロダクトだけではありません。コンテンツ、サービス、売り場づくりにも当てはまる。“モノ”とはビジネスに関わるすべてのクリエーションです」
この二人、熱い……。そして、なんだか楽しい。私、いつの間にかC-3POとR2-D2(『スターウォーズ』)みたいな凸凹コンビの話に惹き込まれていたのです。
あの日から5カ月、「マイクロモノづくり」が本になりました。「本当につくりたいモノ」を本にして、必要としている人たちに届けていく。書店、講演会、そしてイベント、ニーズのある場所には自分の足で売りに行く。大部数を刷らなくてもいい。つくり手と一緒になってワクワクしてくれる人たちに、じわじわとこの本が届いていけばそれで満足。「マイクロHONづくり」編集者の本売り行脚が続きます。
テン・ブックス 田中里枝
*「編集者の自腹ワンコイン広告」は各版元の編集者が自腹で500円を払って、自分が担当した本を紹介する「広告」コーナーです。