本書は月刊誌『実話ナックルズ』の発行人がこれまでの編集者人生で遭遇したトラブルの数々をまとめた本だ。
実話ナックルズと聞いてもピンとこない人もいるかもしれない。暴走族やら芸能界のスキャンダルが乗っているかと思いきや、非差別部落のルポや殺人事件の真相など硬派な記事も載っている。ゴシップ誌やイエロージャーナリズムといえばそれまでだが、良い意味で文字通り「雑誌」だと私は認識している。
前述したような内容だから、取材対象者も、一筋縄でいかない人間が多い。本書でもヤクザに山に埋められそうになったり、政治家に議員会館に連日呼び出されたり、「おたく」の生みの親の中森明夫に公開討論を申し込まれたり、とエピソードに事欠かない(筆者は『選択』や『週刊朝日』編集部にも籍を置いていたことがあり、政治家とのトラブルも少なくない)。
ヤクザからクレームは来ないにしても、大概の仕事ではクレームはつきものだ。記事に対する抗議は私も経験したことがあるが、会って、相手の話を聞くしかない。こちらが間違っていたら、謝るしか方法はないのである。この著者はそのような基本を心に留め、勝負するところは勝負して、引くところはきちっと引いている。ヤクザ相手でも、ぶれない軸があるから、トラブルで廃刊を迫られる雑誌が少なくない中、『ナックルズ』が10年近く存続しているのだろう。
なお、鈴木智彦『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文春新書)と併せて読むと、実話系雑誌の取材手法や置かれている状況も含め知ることができるので興味がある方は是非。