しつこいのは分かっているのだが、どうにもこうにも止められない。既にHONZで3度目の登場ともなる本書は、紹介されるや否や、たちまちAmazonでも在庫切れ。おかげで買うタイミングを逸した方も多かったのではないかと思い、忘れられないうちにトドメをさしておきたい。
代表・成毛眞、編集長・土屋敦。この二人が揃いも揃ってはしゃぐ姿を眺めるのも、それはそれで面白いのだが、本書の面白さはつい他人に話したくなるというのが特徴だ。
その魅力を一言で表すと、隣接分野へ越境することの痛快さに満ち溢れているということではないだろうか。昨今の恐竜学の進展により、もはや鳥類が恐竜から進化してきたことを疑うのは容易ではない。そんな種の壁、時代の壁をやすやすと乗り越えることによって、恐竜学の新しい景色を見せてくる。
古生物学は科学に属するとはいえ、化石を元に全貌を類推するしかないという弱点を孕む。ゆえにロマンもあるわけなのだが、ここへ鳥類学という視点が入ることにより、ぐっと現実的な方向に引き寄せられるようなダイナミズムを感じることができる。なんといっても鳥類学には、形態や行動をつぶさに観察することができるというアドバンテージがあるのだ。
だが、序盤から脱線のオンパレードなのである。よって、隣のホールからグリーンを狙う時のようなアプローチにこそ、最大の見せ場があると言えるだろう。そのいくつかを紹介してみたい。
まず身体の色。鳥類の中には白色の鳥が実に多い。サギ、カツオドリ、アホウドリ、トキ、コウノトリ、ツル。この事実をもとに、著者は真っ白な恐竜が存在していた可能性の有無へと話を誘う。移動性能の高かった中型恐竜、雪と氷の世界にいたかもしれない寒冷地仕様の恐竜、はたまた捕食圧がなくなった飼育下における恐竜などなど。最後の方はもはや訳が分からないが、想像することに罪はない。
続いて鳴き声。鳥が鳴く主な理由は、種の認識、求愛、縄張り宣言、警戒、群れの形成、個体識別といったところ。著者の興味は当然のように、恐竜たちの求愛へと矛先が向く。ここから1年に数日しかなかったであろう”恐竜のど自慢大会”の模様へと想像が膨らんでいくから油断ができない。
最後に歩き方。鳥の歩行の特徴の一つに、首振りというものがある。これは頭を固定して、捕食者や植物を発見しやすくすることが目的だ。これを恐竜に適用するとどうなるのかと考える著者。恐竜が首を前後に振るためには、首が柔軟に曲がる必要がある。だが恐竜の骨の分析から分かったことは、首があまり可動せず、上下にはほとんど曲がらなかったという結果であった。この事実を前に、著者も思わず首をうなだれる。
全編を通して大部分が、わざわざ役に立たない方向へと結論付けている向きもあるのだが、おかげで自伝でも読んでいるかのように著者の人柄が伝わってくる。そこには恐竜学とともに鳥類学全体をも広くアピールしたいという強い思いがあるのだろう。
自分の属する圏域がアドホックなものへと変わりつつある時代でもある。形を変えたり、無数に増えたりする圏域同士をつなぎ合わせるのは、人のコミュニケーションでしかない。そんな状況下における立ち居振る舞いのあるべき姿が、そこにはある。
自分の専門分野を、他の分野に接続する技術。その際に起こりがちな摩擦を、ユーモアで包み込む作法。コミュニケーションはかくあるべしな一冊。