日本人の90%に英語は不要である。極論だと思われるかもしれない。しかし、逆に言うと日本人の10%は英語が必要なのだという意味である。10%とは1270万人であり、東京都の人口とほぼ同数だ。
外務省の海外在留邦人統計によれば、3か月以上外国に滞在している長期滞在者数は2009年時点で76万人だ。ちなみに非英語圏の代表である中国には12万7000人、ブラジル6万人、ドイツ3万7000人、フランス3万人だ。ところで1990年の長期滞在者数は37万4000人であり、この20年間のざっくりとした平均は56万6000人となる。
この長期滞在者が平均して4年間住んでいると仮定してみよう。4年とは大学留学と長期赴任者を想定している。かれらが4年に1度の総入れ替えが起こるとすると、5歳-80歳までの海外に住んだことのある人は56万6000人X19であり、1075万人となる。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/tokei/hojin/10/pdfs/1.pdf
いっぽう、経産省の統計によれば外資系雇用は2004年時点で102万人だ。この場合の外資系にはグーグルやゴールドマンサックスなどは入っているのだろうが、日産自動車、P&G、三菱ふそう、昭和シェル石油、西友、住友スリーエムなどが入っているかは不明だ。ともあれ、外資系に勤務しているからといって、全員が英語を必要としないことは明らかだ。
http://www.jetro.go.jp/invest/reference/reports/pdf/h16.pdf
ところで、国内で英語を必要とするのはかならずしも外資系勤務者だけではない。外国人向け旅館の女将も、新幹線の車掌も英語を無理やり使わなければならない職業である。かれらを乱暴に100万人と仮定して、すべてを足し合わせると1277万人となり、これが日本人の10%に相当するのである。
ともあれ、現実には日本中の10人に1人が英語が使えるとはとても思えない。東京都心ですら、外国人に道を聞かれそうになって足を速める人がほとんどである。なんとかしてその10%の英語力を向上させなければならないのである。というわけで、長々とした前置きのあとで本書を紹介してみたい。
シソーラス(類語辞典)の一種である。しかし、辞書としてだけでなく「読み物」としても、じつに良くできている。「ああ、そうだよね」と膝を打ちながら読むことができる本だ。たとえば「取り除く」の項を見てみよう。
「remove」 「問題を起こしている物を:取り除く」
「get rid of」 「自分が望まない物を(話し言葉):取り除く」
「eliminate」 「必要のない物を:完全に取り除く」
「delete」 「コンピュータ上のファイルなどを:消す」
「erase」 「録音・録画されたものを:消す」
「cut」 「映画、本、スピーチなどから:一部分を消す」
この分類に「例文で使い方を確認しよう!」「もっと詳しく知りたい!」「こんな使いかたもできる!」の3つのコラムで補強する。著者がこんな類語の本を待ち望んでいたというだけのことがある。著者は「本書を覚えようとしないこと。理解して欲しいのだ。」という。まさにそのとおり。納得できる。この本が20年前にあったら、英語はもっと楽だったかもしれない。
ただし、取り上げられている類語は動詞がほとんどである。そのため「should」「have to」「gotta」などの助動詞の使い分けなどについては、続編を待たなければならないかもしれない。それを割り引いても英語を使うことの多いビジネスマン必携の一冊だと思う。