中国が劉暁波のノーベル平和賞受賞に対して、ノルウェー政府に圧力をかけている。当然予想されたことであり、ノルウェーにとっては覚悟の授賞決定だったはずだ。この件では中国の横紙破りぶりだけが報道されるのだが、ノルウェーの意図や覚悟についての報道はほとんどない。じつに不思議である。そもそもノルウェーの実態について良く知らない。そこで本書を買ってみた。
ところで、本書のタイトルは上品とはいえない。テレビ朝日の番組「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」のパクリとしか思えない。それはともかく、ノルウェーを理解するために本書を買った理由は第3章「ノルウェーとイスラエル・パレスチナの関係」にある。第1章「パレスチナの歴史」第2章「中東とイスラエル・パレスチナ」第4章「アメリカとイスラエル・パレスチナ」第5章「その他の国とイスラエル・パレスチナ」のなかで、ノルウェーに1章を丸ごと使っているのだ。このような本は稀である。
その第3章から営業妨害にならない程度に抜き書きしてみよう。「ノルウェーの国外援助はGDPの1%に近く、この比率は世界一であり、国民一人当たり6万円に相当する」「こうした気前の良い援助が可能なのは(中略)サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界第3位の石油輸出国だから」なるほどそうだったのか。中国からの制裁なんてへいちゃらだったのだ。当然国民一人当たりのGDPは日本のそれより大きいという。
ノルウェーは親イスラエルだという。じっさいイランがイスラエルと断交したときにはノルウェーがイスラエルに石油を供給している。その裏にはナチスに対する被害者意識の共有があるらしい。ともあれノルウェーはイスラエルとPLOを仲介し、1993年にはオスロ合意を成立させた。ノルウェーは北極圏に蟄居する、怖いもの知らずの田舎者ではけっしてないのだ。
本書では取り上げられていないが、イスラエルは自国海域で巨大天然ガス田を発見している。イスラエルの消費量の100年分に相当し、さらに大きなガス田も見つかる公算が強い。結果的にノルウェーとイスラエルという仲の良い先進国がエネルギー資源で発言力を増すのかもしれない。本書にもどると、著者はある局面でノルウェー人の発言が、イスラエルの行動に限定的とはいえ、一定の抑制要因として働いたとしている。中東諸国にも顔が効くという意味にもとれそうだ。
そのような諸々の力関係のなかで、ノルウェーはノーベル平和賞をあえて劉暁波に贈ってみたのかもしれない。ともあれ、ことほど左様に本書のタイトルは「なるほどそうだったのか!!」なのだが、なぜ第1章の半分あたり、56ページまでが本文2色刷りなのだろう。56ページ以降はイラストもなくなる。不思議なつくりである。編集者が息切れしてしまったのだろうか。