ほぼ半月ぶりの書評だ。しかも新刊ではない。本書は2009年6月の発行なのだ。先日、ツイッター上で古本屋での掘り出しモノ探しの話題があり、気になって探し出した本だ。これが大当たりだった。
著者は高崎市に住む、還暦を超えた予備校講師。月々40万円のローン返済がある。そのうえで少子化の影響で勤めている予備校から減給を申し渡された。もはや、自己破産をする前にせいぜい蔵書を売ることくらいしか考えられなかった。
まずはアマゾンのマーケットプレースで売ってみようとするのだが、その前にクレジットカードを作らなければならないほどだった。しかし、驚くことに開始から1週間で20冊近く売れたのだ。これに味をしめた著者は、ブックオフなどで本を仕入れては、アマゾンで売る生活が始めるのだ。いわゆる「せどり」である。
それからの2年で2万冊の本を売り、その売上は1700万円をこえた。利益は50%。努力の結果、ローン返済は終わったようだ。その間、仕入れの要である自動車がこわれ、回線をISDNから光フレッツにかえ、パソコンも新調し、せどり専用ソフトを導入し、税務署に事業届けをだし、古物商の免許もとることになる。本書はオジさんの冒険実録でもある。
このオジさん、只者ではない。どこかで聞いたようでもあるが、読書が最大の趣味にして、精読派ではなく乱読派。何かの研究のために読書をするのではなく、ただ娯楽のために読書をしている派だ。そのため文章がうまい。
安倍晋三の『美しい国へ』という本を見ては、「美しい国」作りに励んだ政治家のランキングをしてみせる。ヒトラー、スターリン、毛沢東、ポルポト、金正日の順だという。かなりの読書をしてなければ、作れないリストだ。安岡正篤や中村天風の本が売れることをみては「人々は、なにやら、現実の新自由主義社会の中で頭は金儲けを考えながらも、心は儒教的修身斉家治国平天下を求めているようだ」とチクリと刺す。
とはいえ硬い話はむしろ少なく、長男から3万円、長女から2万円、次男から1万円の「お年玉」をもらって、まるで官製談合の結果のような美しさだと笑ってみせる。終章のタイトルは「本の運命」。長男の家でお孫さん用の絵本を見たところから話が始まる。本好きにとっては珠玉の4ページになるかもしれない。もちろん、その筋書きは本書を買ってのお楽しみ。
本の先輩に対して失礼ではあるが、本書はいかにもタイトルが悪い。内容とまったく異なるのだ。しかし、本の作りは丁寧である。イラストの量と質も充分。紹介されている本の選択も面白い。
この原稿を書いている時点の本書のアマゾンランキングは8000位。マーケットプレースの最低価格は799円+250円。定価は1100円だから、もしブックオフの単Cに出ていたら、セドラーたちにとってはおいしい本なのかもしれない。