最近は書評を書くのが面倒になり、すっかりブログもご無沙汰である。ボクは1年に1-2カ月はとんでもない怠け者になるようだ。某社社長をやっているときにも、スキューバダイビング三昧のあげく、一か月以上出社しなかったことがあるほどだ。
とはいえ、夏休み用の本を仕入れたので、とりあえずその一部を紹介しておこう。そのうちにヤル気になったらブログで取り上げることもあるかもしれない。
『満州国のビジュアル・メディア』
帯の文句がじつにステキだ。「幻想の王道楽土、つかの間の祝祭!」+「儚さの帝国=『満州国』のイメージ」。儚さの帝国には「エフィメラ・エムパイア」というルビが振ってある。カラー口絵を含む、豊富な図版。目次にも「大富源と観光満州」「決戦体制下における弘報独占主義」など目に新しい言葉が並ぶ。
『幻の国を売った詐欺師』
再び帯から。「19世紀初頭、中米に架空の国をでっちあげ、土地を売った希代の詐欺師がいた!」+「夢の国”ポヤイス国”へようこそ!」その詐欺師の名前はグレガー・マクレガー。ロンドンのナショナル・ポートレイト・ギャラリーにある彼の肖像はまるで吉本芸人のようである。
『コロンバイン-銃乱射事件の真実』
この事件はマイケル・ムーア監督の映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」で有名だ。映画はアメリカの銃社会について告発する。しかし、この事件の真相については多く語っていない。なぜ、高校生は学友たちを射殺したのか。500ページを超える本書はそれを明らかにするようなのだ。いっぽうで、本書はなぜか「2010年のアメリカ探偵作家クラブ賞」を受賞している。さらに興味がわく。
『ドナウの南とエルベの東-ドイツ地誌入門』
良く考えてみるとドイツになんにも知らない。イギリスやフランス、イタリアについては漠然とでも地域名と地図は一致する。たとえばウェールズ、プロヴァンス、ピエモンテなどである。ところがドイツについてはバイエルンが南か北かすら判らない。いつかドイツ旅行するために。
『古代ローマ人の24時間』
帯にはつまらない宣伝文句しか並んでいない。編集者のセンスを疑う。しかし、目次がスゴイ。49章建てなのだ。第3章「午前6時-裕福な人が住む邸宅」、第24章「午前10時20分-家畜の市場、フォルム・ボアリウム」、第40章「12時30分-コロッセウムでの公開処刑」、第49章「午前0時-別れの抱擁」。この目次を帯に並べていれば、もっと売れているはずだ。原書はイタリア語だが、訳者は関口英子氏だから安心して買える。
『プルーストの記憶、セザンヌの眼-脳科学を先取りした芸術家たち』
「脳科学」という言葉は胡散臭さ・いかがわしさの宝庫なのだが、出版社は白揚社だから大丈夫であろう。じっさい、本文の訳文では神経科学という言葉を使っているようだ。ざっと斜め読みした感じでは、多胡某や茂木某などのパズル作家たちとは異なる次元の議論になっている。
『モンゴル襲来と神国日本』
歴史読み物にありがちな「○○は本当に××だったのか?」本である。帯には「神風は本当に吹いたのか?」と臆面もなく書いてある。とはいえ、新書の場合はつい買ってしまうのだ。これはもはや習慣であり延髄反射のようなものだ。この類の本はよほどではない限り書評しないのだが、じつは結構読んでいるのである。
『スプートニクの落とし子たち-理工系エリートの栄光と挫折』
ロシア人技術者の物語ではない。1958年に東大理科1類に入学した人々の、その後の物語である。ざっと斜め読みした感想でしかないのだが、かなり面白そうである。タイトルの装丁もよし。当時のベストアンドブライテストの賛歌一辺倒となっていないことを期待したい。
『絵で見る十字軍物語』
本好きであれば、是非にも買わなければならない本がある。書棚になければ、恥としなければならない本だ。本書がそうである。他に説明は不要であろう。ともかく書店でページをめくって見るがよい。
『頭骨コレクション-骨が語る動物の暮らし』
あらゆる動物の頭骨写真、図版満載で1800円。安すぎる。著者が研究のために積み重ねた年月を濃縮して展示している印象である。目次から「田舎のネズと都会のネズミ」「角はメスと交尾するためのもの」「ヒトの出っ歯はゾウの牙?」「歳をとると頭骨も硬くなる?」秀逸である。科学読み物好きであれば買いであろう。
『スマート革命』
スマートグリッドに代表されるエネルギーインフラのいまを伝える本だと理解している。この分野で最低1冊読んでおきたかったのだが、どれが良いの判らない。そのなかで本書を選んだ理由は出版社が日経BP社だからだ。手堅く著者を選択しているはずだし、夢のような政策提案などという雑な編集にはなっていないと思われるからだ。
『水道管の叫び-日本中の水道管が危ない!』
我が家では逆浸透膜方式の浄水器を使っている。飲用・料理用にいわば実験室用の純水を使っているようなものだ。浄水所の出水口における東京の水は、キレイで美味しいことは良く知っている。しかし、途中の水道管が怖いのだ。ということを書いてあるはずなのが本書だ。表紙デザインが良い。
『言葉はなぜ生まれたのか』
これについてはある雑誌の書評で取り上げる予定だ。子供向けの本であり、すべての漢字にルビが振ってあるのだが、素晴らしいの一言である。「あああー、なるほど、そうだったのか!」とページ毎に感心してしまう。絵も秀逸。むしろ、絵があってこその本なのかもしれない。呆れるほどの編集力である。
『一万年の進化爆発』
これもある雑誌の書評で取り上げる。文明が人類の進化を加速しているということを証明しようとする本だ。文明が食料生産量を増やした結果、人口爆発が起こり、結果的に生物学的な進化は加速する。最終章はアシュケナージ系ユダヤ人の知能の高さと遺伝病についてだ。科学に政治を持ち込む米国では危ない議論であろう。事実は隠しようもない。
『黒人はなぜ足が速いのか』
これもある雑誌の書評で取り上げる。アシュケナージ系ユダヤ人の知能が高いどころの議論ではない。黒人の足が速い理由を数々の遺伝子を特定しながら説明するのだ。人種建前社会の米国では大問題になるであろう。ところが、本書は先端分子生物学の入門書としても良くできていて始末に悪い。本書の編集者は横手氏である。『国家の品格』『人を殺すとはどういうことか』の編集者だ。このような編集者がいるかぎり、本来は出版社に翳りなどあるわけがない。
『物語 エルサレムの歴史』
一生に一回は行ってみたい都市がエルサレムである。まさに人類の悲喜こもごもの半分以上はこの都市に由来すると想像しているからだ。にもかかわらず、知っていることはソロモン王、バビロン捕囚、十字軍、そしていきなりパレスチナ問題である。オスマン・トルコ時代と英国統治からイスラエル建国くらいはきちんと押さえておきたかった。
『死刑絶対肯定論』
著者は2人を殺した無期懲役囚であり、驚くべき知性の持ち主である。昨日、久しぶりに死刑が執行され、話題となっているときの出版である。人権派弁護士たちは、徹底的に加害者の人権を守り抜くのであるから、本書についても積極的に読みこむことであろう。加害者の言葉を事前に選択する人権派であってはならないはずだからだ。
『みんなが知りたい 地図の疑問50』
毎月1冊買わされてしまうソフトバンク・クリエイティブのサイエンス・アイ新書の一冊だ。本当にこの新書編集部はセンスが良い。正縮尺の鉄道配線図や路線図ムックが売れているし、iPhoneのMapは日常もっとも使うアプリの1つだ。鳥瞰図マップも売れている。その最中での出版である。
『戦艦大和の台所-海軍食グルメ・アラカルト』
少なくとも将官において、帝国海軍では「えっ!」と思わせるほど贅沢な食事をしていたらしい。兵員でも昭和一桁時代には「塩鮭のシチュー」「蛤の茶椀蒸」「若鶏のハンガリー風」「牡蠣めし」「バナナの砂糖煮」「白葡萄酒パンチ」などを食していた。ふーむ、これはじっくり読むしかない。
『消防車とハイパーレスキュー』
我がツイッター友(じっさいにお会いしたことはないのだ)モリナガ・ヨウ氏の力作だ。子供向きのイラスト本なのだが、模型好き、メカ好き、消防好き、ハイパー好きにとってはたまらない本だ。メカにおいて写真は意外と情報が少ない。イラストではじめて「あー、そこは。だからそーなってるんだ」と判るのである。東京消防庁には地下鉄事故を想定した地下鉄訓練室も用意されていることを初めて知った。
『パノラマ鳥瞰地図帳』
なぜ出版社がPHP研究所なんだ、というのが最初の疑問である。ともあれ、おすすめの一冊なのだが、実物を書店で見てからでも遅くはなかろう。幕末期東京、現代横浜がとりわけおすすめ。幕末期東京の水際ラインや新宿あたりの建て混み具合、横浜港の構造や桟橋の具合などが普通の地図では判らなかったのだ。