不用意につけられた日本語タイトルのおかげで内容を誤解したひとが多いのではないか。原書のタイトルを直訳すると『覆面科学者』であり、ティム・ハーフォードの『覆面経済学者』のパロディだと思われる。ちなみに『覆面経済学者』の日本語タイトルは『まっとうな経済学』である。副題は『あなたの「ついていない」を科学する』とあるのだが、これがさらなる誤解を招く。
本書は純粋な科学啓もう書であり、オカルト本でも怪しげな運命論を語った本ではない。身近な科学を日常生活に結び付けて説明しているだけなのだ。たとえば「電子レンジで加熱した水が爆発した」という小話を提示したあとで、各種の爆発について説明しはじめる。「過熱」の原理、水蒸気爆発とチェルノブイリ事故、「ヘンリーの法則」、減圧症と高山病などを手際よく説明するのだ。
この説明に要したのは、わずか7ページであり、このような章が38もあるのだ。お買い得感がある。もっと身近な、ガソリンと軽油を間違って給油するとどうなるか、ミツバチに刺されたらどうするべきか、瞬間接着剤で指を接着したら、というような項目もあり、読者を飽きさせることがない。
このような本こそが電子書籍向きなのかもしれないと思う。章はそれぞれ独立していて、どの章から読み始めてもよい。ウィキペディアなどにリンクを張ってもらえば、さらに使いやすくなるだろう。原書には多数の参考文献リストが付いているらしく、電子書籍の読者にとっては、ネット書店へのリンクもありがたいはずだ。
ところで、帯には「世界で話題の書、待望の日本上陸!」と華々しいのだが、アメリカのアマゾンでは原書の取り扱いがない。本国の英国アマゾンでもコメントは3件のみ。書籍の電子化は本体の電子化以前に流通で進んでいる。ネットで評判などは、すぐに調べがつくのである。それこそが出版業の不運の方程式なのだ。