土曜日の午後6時台はTBSの「報道特集」が企画でコケると視る番組がなくなる。「人生の楽園」にまではまだ早いし、釣りにロマンを感じるたちではない。そこでNHKの「週刊こどもニュース」を視てしまうことがある。とりわけ池上彰が担当していた当初はよく視ていた。
ボクは池上彰のファンだ。小難しい言葉でしか説明できない解説者や、小難しい言葉を使わなければならないことについては説明しない解説者とは大違いだ。言葉にセンスがある。子供は大人と違い、良い意味で頭が凝り固まっていないので、意外に行間を読めるものだ。池上はその間合いを知っているのだと思う。
本書は朝日新聞の2面に毎日掲載される「首相動静」について解説したものだ。32年間の記事から200日分ほどをピックアップしている。政治家についての本はとかく皮肉や悪口雑言だらけなのだが、本書はそれとは異なる。淡々と記事を解説しながら、時代や政治と政治家について考えさせてくれる良書だ。
本書冒頭の鳩山由紀夫や麻生太郎などの最近の首相については、現実的すぎてつまらないのだが、二人につづく福田赳夫からはがぜん面白くなる。福田時代の1977年の記事には現在の政治家たちの父親たちが登場している。世襲をとことん実感することができる。
じっさい当選5年目の小泉純一郎も福田赳夫に挨拶にきている。仲人のお願いかもしれないと池上はみている。福田赳夫はまた松村剛、安岡正篤、若林敬、西山千明などと会っている。とりわけ西山千明は新自由主義の経済学者であり、小泉純一郎につながると池上は解説している。なるほどねー。
大平正芳は麻生太郎と同じくキリスト教徒だ。その大平が伊勢神宮に参拝したときには記者から質問がでたという。しかし、同じく伊勢神宮参拝をした麻生には質問はなかったという。記者の質が落ちたのか、首相の質が落ちたのかについては池上は解説していない。
大平正芳は奈良本辰也の『維新的人間像』、『仏教経典散策』や『幸田露伴全集』などを買っている。ほかにも中曽根康弘や宮沢喜一などの首相たちは知性と威厳を感じる。
しかし、「神の国」モリや「美しい国」アベ、「あなたとは違うんです」フクダあたりからとても軽くなり「みぞーゆー」アソーで決定的になった。まわりの大臣たちも「バンソーコー」アカギや「酔いどれ」ナカガワなどビジュアルでも耐えられない軽さを表現した。
ともあれ、本書で取り上げられたのは32年間19人の首相だ。あはは。平均は1.68年だ。メディアは総選挙や総理交代などで、売上も視聴率も伸びるので、政治不安を煽りまくる結果でもある。そのメディアに乗って検察や警察もてんでに踊る。そろそろそんな茶番のような構図に飽きてきた読者にとって、本書は新鮮である。