京都旅行中に発見した本だ。副題にあるように「小林かいち」は京都においてアール・デコ様式のデザイン画を描いていた画家だ。生まれは明治29年、昭和43年に72歳で亡くなっている。亡くなる直前まで着物の図案家として染物屋に勤務していたらしい。その「かいち」が本書のテーマであるアール・デコ調のデザインをしていたのは27歳から45歳までのことであるらしい。
本書の構成は「かいち」の魅力を語るという対談、「かいち」の作品をカラーで紹介する第2部、「かいち」の謎を解くという3部構成だ。正直なところ第1部と第3部は、これから現れるかもしれないノンフィクション作家のための資料のようなものだ。けっして面白くないという意味ではない。しかし、それ自体に読み物としてまとまりがあるわけではなく、「幻の画家」について現在までに判明したことのまとめというところだ。しかし、これがなければ読者はただただ絵に関心しながらも、画家の正体がわからずに消化不良に陥っているであろう。
第2部のカラーページが本書の目玉だ。よく考え抜かれた紙質と印刷、ページ飾りやノンブルも含むデザインも素晴らしい。「かいち」は京都の「さくら井屋」という「木版画手刷り便箋・封筒屋」で売られていた絵葉書や絵封筒をデザインしていた。この「さくら井屋」はいまでも繁盛していて、ボクも宮脇売扇庵という扇子屋に行くついでに立ち寄ることもある。ともあれ「かいち」は女性向きの商品をデザインしていたのだ。
本書の監修者である山田俊幸は大正末から昭和初頭にかけてアールデコに近い様式が京阪に見られたが、「かいち」はその洋風アールデコから和風アール・デコへと進んだという。そこで本書の副題にあるように「京都アールデコ」という造語をつくったらしい。かえって「かいち」の位置づけがボケてしまったように感じるのはボクだけであろうか。
「かいち」の絵はアールヌーボー風でもある。「彼女の青春」という絵葉書セットなどはどこか退廃的でビアズレーの匂いがする。おそらく、当時のインテリ女性たちがどこかで接触したであろう洋書の挿絵を真似て絵葉書などを描いたのだ。しかし、それは真似にとどまらず、どこかに浮世絵の匂いがするものだった。「かいち」がデザインしたのはインクによる印刷物ではなく、綺羅摺りなどを使った消耗品としての手摺印刷物だったからだ。それゆえにビアズレーのような妖しさではなく、千社札的な粋を感じてしまうのだ。つまり、洗練ではなく伊達である。
http://www.ikaho-shop.com/SHOP/01001002.html
彼女の青春
灰色のカーテン
蝶の嘆き