かねてより待ちわびていた日本向けの「キンドル・ストア」が、先日ついにオープンした。日米のアカウント統合とやらを行い、試しに何かダウンロードでもしてみようかなと思っていたら、偶然にもニュース・フィードに本書の案内が流れてきたのでとりあえず購入。読み始めたら意外にも面白く、そのままレビューを書き始めるという新しい読書体験になった。
ご覧のとおり、表紙にはいささかの怪しさも漂う。「キンドルで爆発的ミリオンセラー!」と書かれているが、その下に小さな文字で「 の著者が教える、あなたにもできる全ノウハウ」と続いている。けっして本書自体が、爆発的ミリオンセラーを記録したわけではない。本屋で見かけても、まず手に取ることはなかっただろう。ただダイレクト・マーケティングの本として捉えると、その中身には腑に落ちる点がいくつもあった。
著者のジョン・ロック氏は、出版社を通さないインディーズ作家として世界で初めて100万部を達成した人物。本書では、普段は小説を書いている彼が、どのように電子書籍のセールスを拡大していったかという手法が紹介されている。
とかく文才が全てと思われがちなのが小説家という職業だが、著者の姿勢はどこまでもビジネスライクだ。本業のビジネスを別に持ちながら、自分自身で編み出した「マーケティングシステム」を駆使し、着実に成果をあげていく。それは彼自身が究極のゴールを「1万人の生涯読者メーリングリスト」を作ることと公言している点からも伺える。
その成功の秘訣は、徹底したターゲット戦略にある。一言で言うと「特定の読者に向けて執筆し、彼らを集客すること」というシンプルなもの。その中でも電子書籍ならではのポイントが、「ニッチ」読者を対象とし、その絞り込み具合いをより強めているということだ。
例えば、ロマンス小説が好きな読者が200万人いるのなら、その中の1割だけにアピールするよう読者の幅を狭めるのだ。そして、その狭められたターゲットのみに独創的と思われるような作品を書ければ、充分なのだという。さらにその後、手応えを感じ始めた時に、外に広げていくのではなく第二、第三のニッチを作り出していくということも、重要なポイントとして挙げられている。
彼の100万部はメガヒットによるものではなく、あくまでもミドルヒットの積み重ねによるものである。そして、それを後押しする価格戦略も、小説は全て99セントと極めて異例。さらには電子書籍の内容、それをプロモーションするブログ、そこへ呼び込むためのソーシャルメディア、これら三つをどのようにシームレスにつなげているかという戦術も非常に興味深かった。
紙か電子かという議論はこれまでにも散々なされてきたことではあるが、本書のようにマーケティングという側面に着目して描かれたものは極めて少ないと思われる。このような特異な視点から電子書籍を眺めることにより、本の世界が今後どのように変わっていくのかという一端が垣間見えるような印象を受けた。
Kindle読書による、初めての一冊としておススメしたい。