きたやまおさむ(38)、小柴昌俊(28)、養老孟司(56)、日野原重明(32)、海堂尊(28)、隈研吾(39)の各氏に英語の秘訣を聞いた本だ。カッコ内の数字はもちろん年齢ではない。インタビューの再現に費やしたページ数だ。
やはり養老孟司氏がもっともインタビュー慣れしているのか、他の先生の倍のページ数を稼いでいる。インタビュアーに答えるというよりも、強引にお得意な自説に持って行く感じだ。いま流行りのミラーニューロンの解説からはじまり、「日本人の音楽はやっぱり日本語なんですよ」などという不思議な話がでたあと、いろいろあってから、日本語は連歌形式であり「階層構造」を持ってないと断言する。英語の習得術をテーマとする本書にあって、もっとも不思議な章かもしれない。
他の先生たちはなかなか面白い。きたやま氏は心理学的には「英語をうまく喋る人にジェレシーを抱いていると、実は自分の英語はうまくならない」という。その理由は「モデルを失ってしまうから」だ。音楽でも同様で「歌がうまい人をけなすと、その人自身は歌がうまくならない」と付け加えた。同感である。東アジアはジェラシー文化圏だとつくづく思うことがある。
隈氏は「(日本でプレゼンをするうえでは)なんかすごい建築家だとか言われているけど、この人は案外馬鹿なところがあって、いい人なんだ」と思ってもらうことが大切で、「重要なのは中身じゃないような気がする」という。同感である。とはいえ、だんだん寂しい気持ちにはなってくる。
小柴氏は「物理の世界共通語は『イングリッシュ』ではなく『ブロークン・イングリッシュ』なんだ」という。「だから聞くほうも日本人が喋っているときには『R』と『L』を入れ替えてみる」らしい。聞く側の知力が高ければ推測してくれるというのだ。同感である。ボクは英語にはあまり不自由していないつもりなのだが、アメリカでタクシーに乗るときには念のために行き先を書いたメモを持参している。それにしても小柴氏は艶笑噺などの話題がでてきて余裕もあり素敵だ。
海堂氏は「英語で伝えたいことがなければ、英語なんてやらなくていいんじゃないか」という。しかも「(英語を)毎日コツコツやろう、というのは正直言って、全く意味がないことだとぼくは思いますよ」と念を押す。事実をこれほどはっきり言ってしまっては、英語業界から刺客が送られてくる可能性がある。『AERA English』だからこその、腹を括った人選だったのであろう。ともかく同感である。
最後の日野原先生は相変わらず素晴らしいインタビューだ。アクネドート(隈氏の章で詳しい)を使い、雑学よりも考え方を教えてくれる。本書のテーマをしっかりご理解しているようで「I don’t know」よりも「I don’t think I know」のほうが良いなどに言い換えると英語は上手になると具体的だ。
対談モノはあまり読まないのだが、本書はつい最後まで読んでしまった。英語習得術という限定的なテーマで、それぞれの学者の横顔を眺めることができる本だ。とりわけ、小柴氏の夢と粋、日野原氏の柔軟性、海堂氏の目的意識が素晴らしい。