森博嗣の「本業」である模型の本だ。ご本人のサイトによれば「10年ほどまえ、5インチ鉄道模型のエンドレスの線路がとうしても欲しいと思った森先生、敷地を手に入れるためには資金が必要である。『夜でもできるバイト』はないかと考え、小説の執筆を思いつかれたのだ。」とある。つまり、小説は資金を得るための手段でしかないというわけだ。
とはいえ、一般的には『スカイクロラ』の原作者か、『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞受賞者としてよく知られているはずだ。著者は日本を代表する作家の1人なのだ。けれども、本書を読めば、やはり著者は模型のほうに人生を傾けていることがわかる。
本書はその森博嗣の模型ブログの一部を書籍にしたものだ。2007年1月から2009年1月までのブログを単に印刷しただけだといってもよい。ちなみに模型ブログは2002年の第一次工事から始まっていて、本書は第五次工事分ということになる。
http://www.ne.jp/asahi/beat/non/loco/loco00.html
ブログの書籍化だから、ほぼ全ページフルカラーの写真だらけだ。鉄道模型というとなんとなくD51とかC62とか黒っぽいイメージがあるが、著者が愛するのは動輪が二つしかないような小型機である。したがって色もとりどりで、本全体でみるとじつに楽しい気分になってくる。赤、黄、オレンジ、緑、青の機関車や貨車が目一杯走っている。
庭園鉄道は憧れるものの、知識や技術、資金や場所を考えると普通の人は二の足を踏むであろう。HOゲージの模型を走らせることが出来るだけの旅館ができ、しかも予約で満杯だというのだから、その何倍も大きい鉄道模型はマニア垂涎の趣味なのだ。
ともあれ、ブログでまったく同じものが読めるのだから、3000円もする本書を買う理由はないはずだ。著者は「まえがき」で「でも、考えてみれば、無料で見ることができる実物の鉄道車両を、わざわざお金をかけ、苦労して縮小するのだって、同じくらいに不思議かもしれません」といっている。「趣味というのは本来無駄なものではないでしょうか」とつづく。そのとおりである。趣味として本を買うボクとしては、ブログをそのまま本にした稀有な本として買ってみたいわけだ。
とはいえ、本書を買う前に著者のブログを読むことをお勧めする。そして「どーしても書籍で欲しい人」だけが本書を買うべきだ。ちなみに本書には南庭園工場前→西庭園薔薇駅という仮想の切符がブックマークとしておまけで付いてくる。じつはボクはこれが欲しかったのだ。