世界同時不況のなか、中国が一人勝ちの様相を見せ始めた。上海総合指数は昨年10月に大底を打ち、最近では人民元を組み込んだSDR構想を持ち出すなど、強気そのものだ。悪い冗談だと思っていた「21世紀は中国の世紀」が現実性を帯びてきた。このあたりで中国について改めて知識を深めておきたい。
数多くの中国関連本がある中で、ゴールデンウィークに読むには『大地の咆哮』がぴったりだ。著者は上海総領事だった杉本信行氏だ。末期ガンを患っていた著者は本書を上梓してまもなく亡くなっている。著者は「知中派」であっても「媚中派」ではないといわれた、プロ中のプロの外交官だった。
そのため本書は一般的なルポとは異なり、前半は著者のキャリアに沿い時系列で記述されている。後半では水不足問題や農民の搾取、靖国問題などを現場視点で語る。本書が出版されたのは3年ほど前なのだが、内容は少しも古くない。歴史的視点をもって現実を見つめたがゆえに、現在的な価値を維持できる名著だと思う。
ところで、中国発展の要因は為替操作を含む輸出力強化政策が成功したことだ。その結果、2007年の貿易依存度はじつに66.2%に達した。しかし、いかに中国が生産力を伸ばしたとしても、物流コストが高止まりしていれば、輸出はこれほどまでに大きくならなかったはずだ。その物流コストを劇的に下げたのが海運コンテナの発明だった。
『コンテナ物語』はそのコンテナ物流の歴史をまとめたビジネス・ノンフィクションだ。 主人公はトラック業者だったマルク・マクリーン。コンテナ・システムの開発からはじまり、海運会社の買収、標準規格争い、港湾労組との戦い、ベトナム戦争と軍需、など次から次へと現代的なイベントが起こる。過去半世紀にわたる物語なのだが、コンテナだけでなく、船やトラック、積み下ろし施設などシステム全体の標準化の歴史なだけに、それぞれの話題はいまだに新鮮だ。
ところで中国は環境問題については途上国だと主張する。ポスト京都議定書を睨んでは、こちらも知識で武装する必要がある。『チェンジング・ブルー』は気候変動を理解するための最高の書物だ。読みやすく、テーマについて記述は網羅的で、人物描写にすぐれ、すべて科学的事実なのだがストーリーがある。もちろんセンセーショナリズムとは無縁だ。
本書は同位体を利用した古水温計の開発にはじまり、天体の動き、二酸化炭素の効果、深層水循環など視点をさまざまに変えながら、数十年間という短期間で気候は激変する可能性があることを突き止める。掲載されている図版も適切で、非の打ちどころがない。
『ダチョウ力』もおなじく科学者が書いた本だ。じつに「アホ」で、危険で、怪我や病気に異常に強い動物「ダチョウ」を、ただただ飼ってみたかった鳥類狂いの動物学者が、ついには鳥インフルエンザ抗体を作り出すことに成功する物語だ。
関西人特有のユーモア溢れる科学読み物なのだが、ビジネスの匂いもかすかにするのだ。解剖学的に生き物を理解するのではなく、自然の仲間として理解することで、新しい価値を生み出す産業をつくりだせるかもしれない。