完全な工学書であるから、よほどこの二つの事象に特別な興味がないかぎり読む必要はないだろう。これ1冊で二つの事象を俯瞰的に理解することができる。ある程度の科学の素養がないと読むのは難しい。
わずか3ページの第1章につづく、第2章の1ページ目で「バネやゴムの張力なら、その起源は原子間力や高分子鎖のコンホメーション・エントロピーと明確にわかっている」などと、この程度は最低の常識とひと言で片付けられる。次のページでは「表面にいる分子はそれゆえに自由エネルギーが高くなり、この自由エネルギーを単位表面積あたりで表したものは表面張力である」とこの分野の基礎の基礎から解説している。
それから先はどんどん数式も表も図も写真でてくる。アメンボの足は超撥水性を持っているがゆえに、水面をすいすい動き回れる。この時アメンボの足が作る水面の窪みによって排出される水の体積は脚そのものの300倍に達する。などという実生活には全く役に立たず、カルトクイズ番組でも出題されないような話も面白い。
しかし、本書は工学書であるから凸凹表面の基礎理論、ワックス表面の自発的フラクタル構造形成、カーボンナノチューブの表面処理、光スイッチングなどの理論がどんどん出てくる。
昨今ではユニクロのヒートテックに代表されるように、素材そのものが商品力になりつつある。超撥水と超親水は間違いなく、次世代のヒット商品に使われる技術であろう。建築材料や自動車、衣料品や電子部品などあらゆる分野に応用されることになるであろうし、日本がリードしたい分野である。