言いたいことはわかる。しかし本書を一読すると、どうにもお行儀が良すぎる気がしてしまう。本書はタイトルである森林の問題だけでなく、伝統木造建築の問題にも触れている好著だ。このままでは日本の森も木造建築も滅びるという警告の書だ。しかし、テレビという見世物小屋で、激しい言葉を使ってお役人を糾弾するコメンテーターに馴れてしまった読者としては、なんとも心もとない告発の書に見えるのだ。
日本の林業作業者は5万人だとのことだが、1年に50人が作業中に命を落とすという。1年間に1000人に1人が死ぬ職場だ。にもかかわらず、現場を司るのは累積的に複雑化した補助金制度を知るごく僅かな人々だという。この補助金制度について本書は全く誇張なく紹介しているのだが、ひどいものだ。個々人の官僚の能力問題ではなく、官僚制度そのものの害悪がシステムを複雑化しているのだ。
それにしても、森林について知らないことが多すぎた。本書によれば我が国土の過半は未だに不詳だという。ワースト1位の大阪府においてはわずか2%しか地籍が判明していないというのだ。つまり土地の持ち主が判明しないどころか、土地の区分もわかっていないのだ。にも関わらずこの所有者の同意がなければ木を切ることができないのが現状だという。これでは林業が成り立たない。林野庁以前の問題なのだ。これこそは政治の出番であろう。
森林についての本書の主張はじつに簡単である。ともかく現場を信じて現場に任せろということだ。林業に限らず、この国の行政全般において全く同意するものだ。伝統木造建築についても著者はこのままでは日本の建築文化が滅びるとし、なんとか食い止めようと警告する。大工の棟梁の声を聞けということだ。
繰り返しだが、著者は本書において直裁的に中央官庁を非難したりしない。それゆえにお行儀が良すぎるという印象があるのだが、じつはこの態度こそがボディーブローで統治システム改革に効果があるのかもしれないとも思う。官僚だって人間だし、生まれつきの詐欺師でもなかれば、本物の馬鹿ではない。「太陽と北風の物語」にあやかるわけではないが、今こそ糾弾されつづけた中央官庁に誤りをただすチャンスをあげるべきかもしれない。