本書によれば、明治三七年に創刊された『婦人画報』の半分近くは光沢のある紙を使ったグラビアページだったという。そこに掲載されている写真の多くは上流階級の貴婦人とご自宅拝見だったらしい。編集長は国木田独歩だった。
じっさいに明治天皇の側室として大正天皇の生母になる柳原愛子や東伏見宮の写真が掲載されている。のちに大正天皇の后になる九条節子などの超セレブも堂々とポーズをとっている。
しかし彼女らがじつは現代的な美人だったことに驚く。柳原愛子の姪にあたる歌人の柳原白蓮などはいまでもモデルとして活躍できる美貌だ。
ところで、彼女たちの人生のゴールは良い家との結婚だけであり、学校は相手に選ばれるためのコンテスト会場くらいにしか思っていないというのだ。
良い家にみそめられるためには「良妻賢母」よりは「容姿端麗」が重要とされた。そのため、彼女たちは髪を整え、美顔術を受け、痩身術を試す。現代とほとんど違いがない。違いといえばヘヤードライヤーがないことぐらいであろうか。
とはいえ、彼女らの住むところは現実ばなれした大邸宅だ。六万石程度の小さな大名だった松浦家ですら敷地は一万二千坪、部屋数は七十近くあり、使用人は一五〇人もいたという。
三田にあった蜂須賀家の敷地は五万坪もあるため、母屋とお膳所が一町も離れていて、お嬢さまには冷えた食事の記憶しかないというのだ。
本書の特徴のひとつは資料からの引用が多く、それを丁寧に説明していることだ。資料といっても昨今出版されたものが多く、いわばこの時代を知る読書ガイドブックの役割もはたしている。
すでに著作権フリーになっているためか写真もふんだんに使われており、話題も豊富で、お得感がある本である。
(1月17日付産経新聞に掲載)