12月25日付けの『いま恐竜が生きていたら』の書評にあわせて紹介しようと思っていたのが本書である。若い人は著者の景山民夫を知らないかもしれないが、一時は売れっ子の放送作家だった人だ。より知的なテリー伊藤という感じだった。1998年に不可解な死をとげる。生前新興宗教に激しくのめりこみ、マスコミはいまも彼の存在を拒絶しつづけている。このブログでも紹介するべきか否か悩ましいところだ。しかし、いままた読み直してみて、ふたたびとても感動してしまったので紹介する。
本書は20年前に書かれた小説である。父親とフィジーに住む12歳の洋助が海生恐竜の赤ちゃんを見つけるところからお話がはじまる。COOとはその恐竜の赤ちゃんの鳴き声からとった名前である。そのCOOと父子の不思議な暮らしは、フランスの諜報機関によって妨げられる。ファンタジーは謀略に置き換わりながら結末へ突っ走ることになる。紺碧の南の海を背景にした緻密な大人の童話だ。手に汗を握りながら泣けるお話である。
まだフランスが海洋核実験をしていたころの小説だ。アメリカは1958年に海洋実験は中止したが、フランスはフレンチポリネシア海域で1996年まで200回もの核実験を繰り返していた。いまではサルコジ大統領が紛争の調停役を自認し、大人の貫禄を見せるフランスだが、ちょっと前まではヤクザな国だったのだ。
じつは景山民夫は『虎口からの脱出』という本書に勝るとも劣らない大傑作を残している。ちなみに『虎口からの脱出』は絶版になっているらしい。間違いなく日本最高の冒険小説の1冊なのだ。しかし景山で面白い本はこの2冊しかないので要注意だ。残念なのは前述の景山が宗教狂いである。そうでなければ景山が亡くなったあとでも、この2冊は日本の名作として読み継がれ、映画化も行われたのではないかと思う。