本書を読み通すにあたり、目論見の何倍もの時間がかかってしまった。本書はアメリカに実在する機密文書を紹介する本だ。この場合の機密文書とはスパイ活動に関連する文書である。なにしろ国際スパイ博物館のエグゼクティブ・ディレクター、ピーター・アーネスト氏なる人が巻頭の推薦文を書いているほどだ。こころなしかチープな感じの名前の博物館だが本筋ではない。
本書で紹介されている機密文書は50におよぶ。1章は戦争とスパイ活動だ。最初の文書は1586年のスペイン無敵艦隊の編成を伝えた手紙で平文だ。2番目の文書は1775年の独立戦争時のイギリスのスパイ文書で、すでに暗号が使われていることがわかる。12番目は1950年のソ連外務省の文書で、毛沢東が金日成に対しアメリカは参戦しないであろうと予測したうえで、朝鮮戦争をそそのかしていることを報告しているものだ。この章の最後は2000年に現れた偽文書であり、ブッシュがイラク戦争を正当化するときに使われたものだ。
1章以降、2章は二重スパイや裏切り者、3章は対スパイ活動としての防諜活動、4章はウソの情報で敵をかく乱するディスインフォメーション、5章は歴史的偶発事象、6章は領土防衛、7章は国家という機密という構成である。当然のことながら過去数世紀の政治的な出来事に関連した文書が紹介されているわけであり、1エピソードごとについついその時代背景を調べてしまうことになる。とりわけアメリカ史についてはほとんど勉強などしたことがないので、えらく時間がかかってしまった。意外にも南北戦争は面白い。