ここ数年、日本では所得格差が拡大したという認識が広まりつつある。いわゆる「下流社会」の存在も実感できるようになった。しかし、日本の下流社会層は決して本物の貧困層ではない。
本書の舞台であるバングラデシュの最貧困層の所得は、一日二円五十銭という驚くべきものだ。これではいくら物価が安いといっても、子供を学校に通わせるどころか、安全な飲み水も手に入らないという。
バングラデシュのグラミン銀行は、そのような最貧困層が家畜や手工芸材料などを購入するための、僅かでも貴重な資金を貸し出し、自立的に貧しさから脱出させる世界初の銀行である。
マイクロクレジット、すなわち小額無担保融資という取り組みは、ここ十年あまりの間に世界的に導入されはじめた。本書によると全世界人口の一%強、七千万人がこの制度を利用したらしい。米国ですら商売用に六百ドルの資金を借りて、公的補助を受ける状態から脱出した例もあるという。
この知る人ぞ知るグラミン銀行の仕組みの紹介と、最新の取り組みをレポートしたのが本書である。より貯蓄を重視し、返済も個人責任としたグラミン銀行?という新制度や、最貧困層を対象とした「物乞自立支援プログラム」など善意と創意の進化が見て取れる。
しかし、小額であっても事業資金を銀行から借り入れるためには、事業をやり抜く決意と貧困から抜け出したいという根本的な意欲が欠かせない。その双方を失いつつあるように見える日本の「下流社会」層に対しては小額無担保融資も無力であろう。
顧客の意欲を引き出すために、グラミン銀行はトタン屋根のある家を持つ、蚊帳を買うなどの目標を提示した。今こそ、日本の銀行も「下流社会」層に対して、将来の目標や夢を提示することが必要なのだ。