これほど面白い本にはめったにお目にかかれない。明治4年に1年9ヶ月をかけて世界を歴訪した岩倉使節団の旅行記である。著者は久米邦武。天保10年生まれ、昭和6年没の元佐賀藩士である。後に帝国大学教授になる。
この旅行記を書いたときは久米は32歳だ。全権大使の岩倉具視は47歳、副使の木戸孝允が39歳、同じく副使の42歳、同行した工部大輔の伊藤博文はなんと31歳である。一行はこの幹部たちに留学生となる8歳の津田梅子、11歳の牧野伸顕、13歳の団琢磨などを加えた100名を超える編成だった。ちなみに大久保利通を父にもつ牧野伸顕はこのあと米国にとどまり、のちに大政治家になるのだが、麻生太郎は曾孫にあたる。
明治政府はこの旅行において不平等条約改正の下交渉をもくろんでいたが、実際の目的は当時の日本最高の頭脳を持つ若者による視察にあった。当然、久米もただものではない。旅行記なのだがまるでビデオでも見ているような風景描写、正確な統計数字、そしてなによりも久米自身による論説がいまでも新鮮そのものだ。
本書はNPO法人「米欧回覧の会」の水澤周氏によって現代語訳された。この訳がまたすばらしいの一言に尽きる。じっくり読みたくなる訳注などにお目にかかる本は少ない。ただし本書は5分冊、総ページ数2145の大著である。書評であっても一回でカバーできるボリュームではないし、まだ一巻目を読み終えただけだ。
そこで本書の書評も何度かに分けて書いてみようとおもう。そもそも、このBLOGでの書評はボクがお勧めする本の紹介だ。けっして読んだ本をすべて紹介する読書日記ではない。本書をじっくり紹介することはこのBLOGの目的にかなうであろう。