インタビュアーの肩書きを持つ著者による、『文藝春秋』や『週刊文春』でのインタビュー連載をまとめたのが本書である。20人へのインタビューは5つの章から成っており、終章では著者本人が考える、「インタビュー」論が展開されている。
本書の目次にある20人のインタビューイーの名前を見ると、ノンフィクション好きは本書を購入しないわけにはいかなくなる。なにしろ、1人目から『潜入ルポ ヤクザの修羅場』の鈴木智彦である。他にも、『巨大翼竜は飛べたのか』の佐藤克文、『悲しんでいい』の髙木慶子、とHONZで取り上げたことのある面白い書き手が目白押しなのである。
本書のタイトルは『「調べる」論』だが、インタビューのメインテーマは、調査手法というよりは、各人の職業人生についてである。面白い本を書く人たちの人生は、やっぱり面白い。15万部を超えるベストセラーとなった『日本は世界5位の農業大国』の浅川芳裕は、編集者になる前は中東でソニー社員としてプレイステーションを5年ローン(!)で売りまくっていたという。それが、いつの間にか『農業経営者』の副編集長をしているというのだから驚きだ。
多様な職業人生に触れられる本書は、キャリアを考える上でも参考になる。狂言師・野村萬斎は、「型が個性を生み出す」と言う一見逆説的な内容を、実体験を用いて説明する。どんな仕事にも、最初は窮屈に感じるようなルールがあり、個性が殺されるように思ってしまう。しかし、その抑圧こそが大きな飛躍を生むという。演劇プロデューサー北村明子が野田秀樹という天才に振り回されることで、天才に応えていくことで、自らの可能性を大きく飛躍させたことにも似たものを感じる。
どんな職業にも「調べる」という作業は発生するものである。各人が窮地に陥ったとき、「調べる」ことでどうやってその窮地を乗り越えたかを振り返っているので、本書のタイトルが的を外しているわけではない。職業、個性によって「調べる」やり方は大きく異なっており、その差に注目するのも興味深い。
それぞれに「調べる」論はあるものだが、本書に登場する多くの人は、「現場にまみれること」「1次情報に自分の手でアクセスすること」の重要性を強調している。ジャーナリスト出井康博は、民主党員の衆議院選挙にべたりと張り付くことで、なぜ政治に金がかかるか、なぜ今のシステムでは優れた政治家が誕生しないかが、実感として理解できたと言う。スポーツ報知プロ野球担当記者の加藤弘士は、恋愛感情に近いほど取材対象に惚れ込まなければ、近づかなければ、聞き出せない言葉があると言う。
もちろん、現場への没入のみが「調べる」ことではない。エンジニア出身の貧困学者阿部彩は、集められてはいるが、それだけでは意味を成さない膨大なデータをまとめ上げることで、見えにくかった日本の貧困を可視化した。現場から離れることで、現場の実情がより明確に見えることもある。「調べる」というのは、奥が深い。著者による最終章「インタビューを使って「調べる」ということ」、は必見である。
インタビューイーのプロフィール紹介が非常にシンプルなのも本書の特徴だ。そこには、職業と生年月日しか添えられていない。例えば、冒頭で紹介した鈴木智彦の紹介は以下のようになる。
フリーライター 鈴木智彦
(1966年生まれ/2011年3月9日に取材)
これだけである。本文自体が職業の説明となっているので、割愛したのかもしれない。しかし、私はこのシンプルなプロフィールは著者からの以下のようなメッセージだと考える。
インタビューイーに興味が湧いたのなら、自分でその人について調べてみよう