幼い頃にカブトムシやクワガタを捕まえてワクワクした経験なら、誰しも持っているものだろう。そんな昆虫界ではメジャーな両雄も、研究対象としては非常にマイナーな存在であるそうだ。理由は海外(特に西欧)で、全くと言っていいほど生息していないからである。
本書は、そんな知っているようで知らない昆虫たちの生態を、進化論的な見地から解き明かした一冊だ。
カブトムシが角をぶつけ合い、メスを取り合う ― 実によく見かける光景である。これなどまさに、同性内淘汰という進化の産物の一例とも言えるだろう。そんなカブトムシの闘争行動に着目した著者は、124例ものオス同士の喧嘩を観察し、勝利の法則が存在することを導き出す。
意外にも思えるのだが、序盤の角を突き合わせた時点でどちらかが逃げ出し、勝負がついててしまうことが大半であるという。投げ飛ばしのイメージが強いカブトムシだが、約58%のケースにおいては取っ組み合いの段階まで行かないのだ。そしてもう一つ重要なのは、必ずしも身体の大きい方が勝つとは限らないということである。
それなら決め手となっているのは、一体何なのか?答えは、角のサイズ差に見つかった。彼らはディスプレイと呼ばれる角の大きさの誇示で、お互いの力量を測っているのである。つまり、カブトムシの角は、相手を突き飛ばすことよりも、相手のサイズを測る「ものさし」としての役割の方が大きかったということなのだ。
同様の調査は、クワガタのケースでも行われている。こちらの観察総数は281対戦。例えばミヤマクワガタとノコギリクワガタを戦わせた場合、ほとんどのケースにおいてノコギリクワガタに軍配が上がる。これは、勝負の決め手が大顎の長さで決まるため、角が湾曲しているノコギリクワガタの方が有利であるということに要因があるそうだ。
しかし、それだけでは終わらない。著者は、角のサイズが小さいものや、大顎の長さが短いものにだって、生存し続けているにはワケがあるはずと考え始めるのだ。ここからが、生物学者としての真骨頂である。こうして、弱者独特の繁殖戦略が次々に明かされていく。闘争戦術で勝てないもの達の代替戦術とは、一体どのようなものなのか?
まえがきには「本当の自由研究は、大人になってから」と書かれている。それを愚直なまでに実践した研究成果の数々。夏休みが来る前に、読み終えたい一冊だ。