本書は、2001年から2007年にかけて『コンティニュー』誌に掲載された、ゲームクリエイターたちへのインタビュー集だ。全16回、1回のインタビューにつき2万文字を費やし、2段組み432ページで2200円、非常に読み応えがある内容となっている「永久保存版」だ。
ゲームへの熱い想いが語られる本、であり、インタビューする人も、される人も、根っからのゲーム好きだ。ゲーム関係の専門用語もけっこう出てくる。もしかしたら、わかりにくい部分もあるかもしれない。
「いまでもドットは打たれているんですか?」
「それはもう、やめられない。趣味でもあるので。」
このようにして、過去の名作ゲームについての話に思い切り華が咲く。まるで、将棋の感想戦のようだ。ちなみに「ドットを打つ」とはゲーム向けの絵を描く手法の1つだ。(ああ、もっと良い表現があるような気がする…)
たとえ、本書がちょっとマニアックな本だったとしても、その守備範囲はけっこう広いに違いない。なにしろ、インタビューの1人目は、あの『パックマン』を作った岩谷さんだ。パックマンの、あの有名なキャラクターは、どのようにして生まれたのか。
2人目は『ゼビウス』や『ドルアーガの塔』を作った遠藤さんだ。遠藤さんの、決して真似ができない就職活動。
3人目は『ファイナルファンタジー』を作った坂口さんだ。ファイナルファンタジー という名前の由来。音楽を作った植松さんは、坂口さんが貸しレコード屋でケイト・ブッシュを借りた時にいた店員さんだった。
この3人で、既にもう十分じゃないか。上記のゲームのうち、どれか1つでもやったことがある人を数えたら、一体どれくらいの人数になるのだろう。ものすごい数ではないか?
そして、インタビューの4人目は、『MOTHER』の糸井重里さんだ。
さらに言えば、この本は、ゲームをやらない人でも、きっとおもしろいに違いない。たとえわからない部分を読み飛ばしたとしても、十分楽しめるのではないだろうか。
なぜなら、この本には、誰もが懐かしいと思うような何かが書かれているからだ。この本に書かれているのは、あたかも放課後の部活動のように一生懸命にゲームを作った人達の話であり、また、同時に、ゲーム産業が大きくなっていった時代の歴史である。
遊びをせむとや生まれけむ。どれだけ「おもしろいもの」を作ることができるか。ゲーム業界は、遊び自体が仕事の業界だ。働く人も、買う人も、とにかく楽しむことがゴールの分野だ。「楽しい思い出を作ること」が人生の目的の1つだとしたら、ゲーム業界は、仕事と人生のゴールが直結している業界とも言える。もちろん、そんなにいい話ばかりではないだろうけれど、本書を読んでいると、なんというか、というか、何度もいうが、部活のような雰囲気を感じるのだ。そして、「自宅の壁にいたずら書きをする子供達におこづかいをあげた人の話」を思い出す。お金が絡むと仕事が義務になって途端につまらなくなる、とは、必ずしも言い切れないなと思う。
ゲーム業界は、作ったものを早速世界に広めて「このゲームはおもしろい!」と言ってもらえる業界なので、それが、本書に流れる独特の雰囲気につながるのだろうか?買ってくれるお客さんが世界中にいる、という意味では、それは、最近のネット業界にもあてはまるのだろうか。ほかには、どんな業界があるだろうか。
また、本書でインタビューされている人たちは、1980年代から90年代にかけて、ゲーム業界の黄金期を作った人たちだ。日本から世界に進出した数少ない業界であるゲーム業界を支えた人達は、どのような人達だったのか。丸山さんの、『プレイステーション』が作られた時のインタビューなどを読むと、いかに小さな規模で始まったか、いかに不安要素だらけだったか、そして、いかに仕事が「ロマン」だったかがわかる。そして少しせつなくなり、少しすっきりする。
「彼らはゲームを作っているんじゃない。知恵と勇気と、希望を創っているんだ」 宮部みゆき
「コンプガチャ」のようなニュースだけでワルモノと判断するのは、ゲームがかわいそうだ。ゲームは時にお茶の間を(ある意味)明るくし、(やるべきことを後回しにして)ヒマを持て余すどこかの少年少女に(ある意味)ゴールを提供してきた。ゲームは、その先のストーリ―を見たいがために徹夜でプレイし続ける(どこかの誰かのような)人を生み出したし、ゲームは、毎日毎日同じ時間に集まる(ワルイ)仲間を作り、時には(どこかの誰かのように)落ち込んでいる人でも、明るくしてきた。ゲームがなかったら、世界はもっと、ツマラナイものだった。そうか、こういう人たちが作っていたのか。
それで、「もう一度、たった一人で一からゲームを作ってみよう」と思って、仕事を再開したんです。
最初の連中はいつも自信なんて持っちゃいないんだよ。
「ゲームの流儀」とは、どのようなものだろう。私にとっては、今ここに書いているようなことだ。他の人だったら、どのように読むだろうか?なにしろ、2万文字で16人分だ、流派もいろいろ出来るだろう。きいてみたい。それもまた、1つのゲームだ。その気になれば、なんでも、ゲーム。
本書でインタビューされている遠藤さんの、ゲームのつくりかた講義。「なぜ面白い、なぜハマる?」HONZ鈴木のレビューはこちら。