このジャンルで最高・最上の一冊の改訂版がやっと出版された。このジャンルとは図鑑である。子供のころ、桜の花が大きく描いてあって、花弁・おしべ・がくなどの名前を知ることができる図鑑に夢中になったことがある人も多いはずだ。本書はその大人版であり日本語と英語は併記されることで英和辞典の役も果たしている。
もともとこのジャンルは同朋舎の得意分野であった。本書の初版も1999年に同朋舎から出版されている。本書以外にも『人体』『植物』『建築物』『航空機』『海と航海』『物理の世界』など大人向けの英和図鑑を出版していた。しかし、分冊が微妙だったためにシリーズを揃えたいというコレクター心をくすぐることができなかったようだ。いまではすべて絶版になっている。
知る人ぞ知ることだが『Wired 日本語版』は1994年同朋舎から創刊されている。編集長は小林弘人氏(こばへん)だった。『Wired 日本語版』は1998年に休刊し、小林氏は連載を引き継ぐかたちで『サイゾー』を創刊した。同朋舎はデアゴスティーニと提携し、日本進出を支援していたこともある。間違いなく先見の明のある不思議な出版社だった。しかし、現在同朋舎は一般図書の出版を停止しているらしい。
同朋舎は大正7年、印刷所をもつ出版社として浄土真宗の僧侶足利浄圓によって創業された。現在も美術グラビア印刷などを得意としていて、思文閣出版の印刷を一手に引き受けているようだ。どんどん余談が進んでしまうけれど、この思文閣というのは「お宝鑑定団」で日本画を担当している田中大氏が経営する日本美術コングロマリットだ。思文閣京都本社、銀座店、福岡店、ぎゃらりぃ思文閣、古書部、思文閣出版、思文閣美術館などを経営している。たまに京都古門前の本店を覗きに行くのだが、いいものは高い、欲しいものは欲しいが、買えないものは買えない。
閑話休題、本書は「宇宙」「人体」「建築」「音楽」「スポーツ」など14のジャンルを613ページで図解する。本文中の3万語は巻末の200ページを超える和英・英和索引で検索することもできる。3万語のなかには「空晶ホルンフェルスChiastolite hornfels(火成岩と変成岩)」「下尾筒Under tail converts(鳥)」「方立Mullion(ルネサンス建築)」など日本語ですら聞いたこともないような言葉から、冒頭の子供図鑑にのっていた花弁・おしべ・がくまでまさに森羅万象だ。
ところでその花弁・おしべ・がくの英語はご存じであろうか。それぞれPetal,Stamen,Sepalだ。じつは日本人が英語を話せない理由の1つは単語力にあるのではないかと疑っている。花のパーツ名称は特殊だとしても、オフィスを見回してみると簡単に英語が思いつかないモノが多い。観葉植物、ドアの蝶番、引出し、蛍光ペンなど、少し考えてみると判りそうなのだが、通じるかどうか不安になるようなモノにあふれている。ましてや骨折や糖尿病などありふれた病名やレストランのメニューなども意外にも知らないことが多い。子供が新しい言葉や知識を、図鑑を読むのではなく眺めながら覚えていくように、大人も眺めるだけで充分に楽しい本書はうってつけかもしれない。