2冊の書斎本がほぼ同時に発売された。
『書斎探訪』は月刊『男の隠れ家』に連載されている「男の書斎」という記事を収録した1冊だ。書き手はフランス料理本の第1人者である宇田川悟だから文章が流麗で、とろみながらゆったりと読める。まさに日曜の午後の書斎で読むのにうってつけの本なのだ。逢坂剛、村上龍、北杜夫などの作家たち、滝田栄、秋山裕徳太子、渡部昇一などのちょっとクセのある人たちなど20人の書斎でのインタビューをまとめたものだ。
作家逢坂剛の蔵書は洋書を中心とした5000冊。見事に整理されているという。その書斎は神田神保町にあり、毎日9時に出勤し5時に帰るのだという。フラメンコギターもプロだし、ピストルの早撃ちもプロだし、しかし小説はほとんど趣味の領域だと、本人は語ったという。著者のまとめは「人生の達人」
過激派老人学者と思われがちな渡部昇一は、驚くことに77歳にして蔵書のための建物をローンで新築したのだという。英語学関係の古書に関しては世界一のコレクションだとケンブリッジ大学の図書館長が断言したとのことだ。『種の起源』の初版本だの、ブリタニカ百科事典の第1版から全部だの、たしかにとんでもない。著者のまとめは「穏やかで温かい警句と箴言と応援歌に満ち溢れている」
103ページと薄いのに1700円だし、写真はほとんどモノクロだし、お高いような気がするが、書斎というキーワードで才能あふれる人たちの人となりをじっくり知ることができる優れたエッセイだ。2008年にも同じ連載をまとめた『書斎の達人』が出版されている。人気のある連載であることは間違いない。
『作家の本棚』は同じく2008年に出版された『本棚』と『本棚2』をまとめたもの。つまり「書斎」と「本棚」は4年ごとに別の出版社から同時に発売されているのだ。変形オリンピック出版物である。大人になってから小説はあまり読まないので、1冊でも読んだことのある作家は数人しかいない。しかしこれがなかなか面白いのだ。
角田光代の本棚に900人あまりが集団自殺した前代未聞の事件を描いた『人民寺院』を発見したり、山崎ナオコーラの本棚に大竹伸朗の『カスバの男』を見つけたり、読みたいと思ったけれど買ってもいなかった本を見つけることもできるのだが、それ以上に各作家の本に対する体験や姿勢がじつに面白い。
西加奈子が高校生になって自分で始めた買った本はトニ・モリスンの『青い目がほしい』。その西が去年一番読んだ本として挙げているのが『壇流クッキング』だ。川上未映子は高1まで本をあんまり読めへんかった、らしい。神林長平が叶うならばこういうのを書いてみたいと思っているのはJ.G.バラード。
なかでも有栖川有栖「これから読んでみたい本は、買ったまま本棚に収まっている本ですね。(しかし)時間がない。(とはいえ)いくらなんでも読んでおかなくては、と買ったままの本を片付けてるうちに、命が尽きてしまうんじゃないか。とおもいながら、気になる新刊はどんどん出るし、蔵書が増えないのは寂しいから、あれもこれもと買い続けてます。」こればかりは作家であれ単なる本好きであれ、まったく同じ悩みなのだと共感しきりだ。
たしかに『壇流クッキング』は男の料理の不朽の名作だ。ちょいと眺め直してみようと探したが、自宅の書庫に見当たらない。買おうかと思ってアマゾンを見て驚いた。1975年版の古本がまだ150円の値を付けているのだ。まったく人気が衰えていない証左かもしれない。