石原裕次郎 52 美空ひばり 52 向田邦子 53 有吉佐和子 53 越路吹雪 56。
これは、私が今でも見たいし聞きたい、読みたいと思っている人たちの享年である。並べるととても若くて自分が彼らの年を越したことが信じられない。彼らが居ないのは惜しい。しかし亡くなった人は仕方がないと諦めが付く。だけどふっと居なくなってしまった人への思いはどうやってけじめを付けたらいいのだろう。
そう思う人がたくさんいるから、繰り返し繰り返し「ちあきなおみ」のカムバックを願う声が聞こえてくる。1992年、夫の死をきっかけに一切公の場に出てこなくなった歌姫。彼女に恋焦がれ、何年かに一度はCMに使われ、ベストアルバムがヒットする。10代は当然だが、20代、30代もほとんど生でみたことはないはずなのに、名前と存在感が知られているのは、コロッケをはじめとしたモノマネタレントが、デフォルメされたちあきなおみを演ずるからだ。
つい先日も、オールナイトニッポンでナインティナインの岡村隆史が、ちあきなおみの「夜へ急ぐ人」について熱く語ったためにyoutubeのアクセスが急増した。しかし岡村も実際歌っている姿を知っているわけでなく、志村けんのコントを覚えていたからだという。
NHK紅白歌合戦でこの歌の直後、司会の山川静夫が「気持ち悪い曲ですね」と思わずコメントしていた。
昨年暮れから放送されているTOYOTA/Rebornの中でも使われた「黄昏のビギン」はビートたけしが望んだそうだし、桑田啓祐が自身のラジオ番組で特集して「日本の宝」と称えたり、本書がこのタイミングで加筆の上文庫化されたのも縁というか運がいいというか、時代が「ちあきなおみ」を望んでいるのだと思う。
ちあきなおみのデビューは1970年。「雨に濡れた慕情」である。
♪好きで別れたあの人の、胸でもう一度甘えてみたい♪
小学生だった私は、この部分に大人の女を感じて、繰り返し歌ったのを覚えている。
1947年生まれだから、このとき彼女は21歳。AKB48のメンバーとほぼ同じなのが信じられない声だが、それもそのはず、母親が芸事好きで姉たちとともに4歳からタップダンスを習い「白鳥みえ」という芸名で米軍キャンプをまわっていたという。ちあきなおみと同時代の歌手、弘田三枝子や伊東ゆかりも幼い頃からキャンプをまわっていた。幼い子供だろうが、当然、ジャズやポップス、カントリーなんかも見よう見真似で歌わなくてはならない。自然とリズムも身に付くし大人びてもくるだろう。昭和40年代にデビューした女性歌手が、揃って歌が上手かったのは、そういう背景があったからだ。
ちびっこ歌手を卒業した後、中学生で舞台に戻る。家計を助けるためと思われるが、当時のスター橋幸夫やこまどり姉妹の前座をつとめ、ドサまわりの日々が10年続くのだ。「歌の上手い子」と評判が立ち、吉田尚人が経営する芸能プロダクションの秘蔵っ子となった。ここでのちにデビュー作を書いた作曲家、鈴木淳に預けられた。歌唱力もレッスンへの取り組みも図抜けた存在だったという。
ちあきなおみを語るには「喝采」は欠かせない。ドラマチック歌謡と後に呼ばれるようになる一つの小説を思わせる歌謡曲は、とてつもない歌唱力が必要であった。その上「黒いふちどり」のような葬式を思い浮かべる縁起でもない言葉が日本の歌謡界に出たこともかつてなかった。しかし昭和47年のレコード大賞はちあきなおみの上に輝いたのだ。
お茶の間のバラエティ番組花盛りだった昭和40年代後半、ちあきなおみはコミカルな役どころを楽しんでいたと思う。ドラマにも多く出演していたし、カバーアルバムもヒットしていた。「たんすにゴン」のCMも懐かしい。宍戸錠の弟、郷鍈治との結婚によって、ちあきなおみは幸せの絶頂にあった。
その夫ががんで亡くなった1992年、張り詰めていた糸がぷつんと切れるように、芸能界から姿を消した。本書には各界から多くの人が言葉を寄せている。それは面識があるなしに関わらず、その魅力に魅せられた人々だ。いなくなって20年も経つのに、期待を紡いでいる人は多い。生きているのならもう一度聞きたい。本書でも書かれているように、ニューオリンズあたりでボイストレーニングをして、アメリカの若いバンドのボーカルとして登場しないだろうか。由紀さおりの活躍を目の当たりにすると、そんな夢を見たくなる。
最後に芸能界から消える数ヶ月前の舞台を紹介して、私の熱い思いを終える。それにしてもYoutubeは時を食べる魔窟だ!
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やはり繰り返しブームが起きる山口百恵。同じ年で大好きだけど、なぜかもう一度歌って欲しいとは思わない。彼女は完結していると思っているからか。
彼の復活を熱望していたひとりである。死んでしまってはつまらない。
年代的に私は大人になりすぎていた。若い人にはこちらに心を寄せるだろうね。