Facebookなどを眺めていると、定期的にスパムアプリらしきものを見かけることがある。今でこそ簡単に引っかかる人も少なくなってきたが、最初のころは友人達が軒並み引っかかっているのを見て戦慄に近いものを覚えた。人間関係を利用した手法がいかに強力であるか、視覚的に確認することが出来たからである。
そんな人間関係を悪用したソーシャル型犯罪、そのはしりとなったのが、2000年代初頭に暗躍した「オレオレ詐欺」だろう。本書は、後に「振り込め詐欺」という正式名称も付くことになる犯罪を、日本で最初に始めた男の告白記である。
著者は、北関東の片田舎で生まれ育った人物である。中学時代に東京へ憧れ、高校入学とともに上京。DJの腕を見込まれクラブにも出入りし、合コン漬けの毎日。ここまではどこにでもいそうな高校生の話なのだが、後輩にカジノバーに誘われたあたりから運命が大きく変わりだす。
より強い刺激を求めてカジノバーの常連客になる→借金が増える→怪しい人物と知り合いになる→闇金業で働くようになる。そんな典型的な転落ストーリーを歩み、あれよあれよという間に落ちていくのだ。
闇金業の仕事は、与えられた名簿に電話をかけてセールスをするというだけのものである。しかし何を思ったか著者の後輩が突然、債務者の家族構成の欄に記されていたおばあさんの自宅に電話をして「オレオレ」と孫のふりを始めたのだ。これが後に大きな社会問題にもなる事件の発端なのである。
たまたま遊びでやったことで編み出された技法が上手くいくとわかると、あとは会社全体でゲームのように犯罪が加速していく。そしてノウハウも共有化され、手口もどんどん進化していった。また特徴的なのは、その手法の簡易さから類似の詐欺が爆発的に広まっていったということなのだ。
しかし著者たちも警察に動きがばれかけことを察知し、一度は詐欺から手を引く。それなのに、しばらくすると再び詐欺を始めてしまうのだ。一体、何が彼らをそうさせたのか?
2012年の現在になっても、振り込め詐欺の被害は一向に減らないのだという。特に被害が大きいのは東京、名古屋などの大都市で人間関係が希薄な地域。しかし同じ大都会でも大阪圏は被害件数が著しく少ないそうである。
刑事の見解では、大阪はもともと、人との触れ合いを好む文化があり、詐欺犯がお年寄りに電話をしても、「あんた、何をやったん?詳しく説明しい」と根ほり葉ほり聞くからなのであるそうだ。大阪のオバチャンのようにウザいと思うほど詳しく聞くのがポイントだとか。人間関係を悪用した犯罪は、防ぐのもまた人間関係ということなのか。