この夏から「日本化」という言葉が世界の経済ジャーナリズムやマーケットなどで飛び交うようになってきた。7月には英国『エコノミスト』誌が、和服姿のオバマ大統領とメルケル首相のイラストを表紙に登場させ、先進国の「日本化」を懸念する特集を組んだほどだ。
「日本化」とはデフレによる経済停滞だけでなく、政治のねじれ現象による混迷や、返済不能とも思われる国債発行残高を抱える、あの日本のような国になってはいけないという戒めの言葉だ。
本書『大停滞』はそれをすべての先進国が受け入れなければならない宿命だと説き、日本をその「大停滞」の先輩だと持ち上げるのだ。著者は真面目に「日本は素晴らしい国であり、世界の多くの国は日本をうらやむべきだ。なぜならば、日本人は経済の停滞を共存する方法を見つけている」という。
褒められてもまったく喜べない。では、この現象はなぜ起こっているのかという謎解きをしてみせたのが本書である。著者は20世紀をざっと俯瞰し、土地の有効利用、技術革新、教育の向上の3つが経済成長に寄与してきたと考える。そして、その3つともが限界に達したため、これから人類は「大停滞」に入るのだと説くのである。
この説については、多くの経済学者の間で熱い議論がいまでも続いている。本当に「大停滞」の理由は技術革新の枯渇なのか、インターネットやITの寄与率を過小評価しているのではないか、といった議論である。ビジネスウィーク誌が2011年の最も話題の経済書と呼んだのは誇張ではない。
しかし、じつは日本は「大停滞」に入っていないのではないかという、前提を疑うような議論はほとんどない。日本だけは多臓器不全を起こしてしまい、もはや助けることができないという印象なのだ。ともあれ、まちがいなく本書の結論には同意できる。科学者の社会的地位を高めるべきだという主張だ。『儲けたいなら科学なんじゃないの?』という一冊を思い出してしまった。ホリエモンと筆者の共著だ。
(週刊朝日10月28日号 「ビジネス成毛塾」掲載)
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はからずも本稿は久保洋介とのクロスレビューになってしまった。経済学書が苦手であまり読んでこなかったという東えりかも買ったようだ。話題の本となるとやっぱり買ってしまうミーハーぶり。ボクだって小説は読まないといいながら『1Q84』だけは買ったのである。
本稿結びで紹介している『儲けたいなら科学なんじゃないの?』は週刊朝日編集部による編集で、朝日新聞出版から出版されているのだ。営業である。原稿依頼を受けているからいうのではないが、週刊朝日はこの数年ホントに面白い。先週号の北原みのりのコラム「ニッポン スッポンポン」でドイツの「変態」たちのパーティの様子が紹介されていたが、こんなことをまともな週刊誌に掲載してよいのかと思わせるほどの割り切りぶりだ。