2011年、最も話題になった経済書だ。
New York Times、Financial Times、Wall Street Journal等さまざまなメディアが「2011年最大の話題の書」と呼ぶくらいである。英Economistは著者を「今後最も世界に影響を与える経済学者の一人」に選出した。本書の議論が日本の紙面を賑わすのも時間の問題であり、又、ビジネス・経済の原動力が何たるかを指摘しているので、ビジネスマンは必ず読んでおいた方がいい。
本ブログ愛読者の中には「経済書」と聞いてゲッとなった人がいるかもしれないが、安心して欲しい。数式は一切出てこないし、何より約160ページという薄さで、しかも分かりやすく、あっという間に読めてしまう。通勤電車の中で読むには最適の本だ。
本書は、欧米や日本など先進国の経済成長が鈍化しているのは、ケインズ経済学者が唱える「政府が適切に機能していない」からではなく、また古典派経済学者が唱える「市場原理主義が機能していない」からでもなく、「技術革新(イノベーション)が減退している」からと主張する(シュンペーターの現代版と言えよう)。
先進国では繁栄の条件である「容易に収穫できる果実」が食べ尽されたため、経済(特にアメリカ経済)は停滞していると著者は言う。「容易に収穫できる果実」とは、要は金になる木のことで、①豊富な資源を含む無償の土地、②イノベーション、そして③賢いながらもこれまで教育を受けてこなかった子ども達を指している。先進国では、①と③がもうほとんど存在しないので、経済成長を維持する為には②のイノベーションが必要であるが、このイノベーションが減速していると主張する。確かにここ数年、自動車のイノベーションはあまり起こっておらず、10年前の車も今の車も大差はない。日本人が長年求めてきた「アトム」も出来ていないし、「どこでもドア」も開発されていない。
「インターネット」というイノベーションがあったではないかという反論に対しては、こう答える。インターネットは社会構造を変えたという意味ではイノベーションであったが、自動車やテレビのように売上や雇用をあまり生み出していない、と。インターネットは、無料サービスが多く売上が限られている上、多くの業務はソフトウェアやサーバーなど無人で行われている為、GDPや雇用者数を押し上げる力は弱いのだ。今、世界中で2.3億人のユーザー数を誇るtwitterは米国で300人しか雇っていないという指摘には驚いた。あのiPodですら13,920人しか雇用を創出していない。
では今後も経済成長を継続(もしくは儲け続ける)ための処方箋は何なのか。答えは本書を読んで確かめてほしい。儲けの源泉とは何ぞやというのを言い当てており、納得できる。(あー、本当はここの部分を膨らませて書評したいのだが、あまりにもネタバレになるので今回は我慢。。)HONZ代表の成毛眞や堀江氏(ホリエモン)も同じようなことを言っていた。
最後に著者は読者に対して、「高い経済成長を維持し続けるなんて無理なのだから諦めろ」(実際には期待成長率を引き下げろ)と忠告する。その点、資本主義の衰退を警告したシュンペーターよりさらに踏み込んだ「諦念」の精神である。著者はもしや仏教徒ではないかと勝手に疑ってしまう。経済的物質主義に対するアンチテーゼとしても読めて、面白い。欧米で多くの議論(反論)を呼んでいるのは納得できる。
本書の主張は刺激的なので賞賛されると同時にかなり反論されている。統計の取り方があまい、論理が飛躍している、証拠となる資料を十分に提示していない等。本書の主張が正しいかどうかはもうすこし時間が必要だろう。ただ個人的にこの手の議論を呼ぶ主張は面白いので、オススメだ。
東洋経済「09年上期ベスト経済書」1位の本。読みやすい。
同じ著者の作品。「グローバリズムは地域文化を破壊する!」という文化保護論を経済学の概念を援用して否定する。とても刺激的。
実はまだ読んでないのだが、、、タイトル的に著者と同じことを言っているのだろうと推測。