東京スカイツリーをテーマにしているのだが、スカイツリー自体がどこにも出てこないという奇跡のような写真集。今やスカイツリーと同じくらい名物になっているのが、ツリーの全体像をカメラに収めようと格闘している人たちである。本書は、そんな人々による「決定的瞬間の決定的瞬間」ばかりを集めた一冊。
全132枚の写真とともに収められているのは、編集の妙である。各々の写真には撮影者のプロフィール(名前、年齢、住まい、職業など)、「アグレッシブ度」や「紳士淑女度」を表すレーダーチャートなど、どう役立てたらいいのか全く分からない情報が満載。この無味乾燥にも思える情報が、30人を過ぎたあたりから「へぇ〜 50代のサクラさんは、小物作りが趣味なんだぁ」などと、楽しめるようになってくるから不思議だ。
また、撮影者のカテゴライズも、状況別に「男子シングルス」「女子シングルス」「ダブルス」といった具合に、きめ細かく分類されている。ちなみに表紙で使用されているラインダンスのような一枚は「団体戦」にカテゴライズされているもの。この写真を見て「日本は平和だな」などと舌鼓を打った後には、「外国人枠」のパートが用意されているなど、随所に如才ない。
さらに、この撮影者たちの行動を解明しようと目論んだ、臨床心理士や押上整骨院院長へのインタビューも見逃せないだろう。
日本人はウチとソトとを区別する傾向が強いです。撮影者にとって、スカイツリーの他の撮影者や通行人はソトの人に過ぎず、自分のどんな姿を見せようとも気にならない。つまり「旅の恥は書き捨て」的な心理が働きます(臨床心理士・矢幡洋先生)
などのやり取りは、まだ分かるのだが、
筆者:では、「首が痛い」とか「腰をひねりすぎて」(来院される)という方は………
院長:っていう方は…… 今のところはいらっしゃらないですねぇ。
といったやり取りには、もはや確信犯すら感じさせる。本書ではこの他にも「周辺の気になる純喫茶を訪ねて」「こんなカメラマンは困る」など読み応えのあるコラムが盛り沢山だ。
一見ふざけているようでありながらも、東京スカイツリーがいかに大きいか、そしてどれだけ多くの人に幸せを届けているかという魅力を余すことなく伝え切っている点は、見事だと思う。外側からモノを語るとはこういうことかと、感心しきりの一冊。
次回作では是非このように、『東京スカイツリーを撮影している人を撮影している人を撮影している人…』などの深みにハマっていただくことを、切に願う次第。
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