★★★★☆
最新の遺伝子医療に興味のある人はもちろん、私たちの命に何が書いてあって何が書いてないのか興味のある人にオススメ
遺伝子医療革命―ゲノム科学がわたしたちを変える (2011/01/21) フランシス・S・コリンズ |
『眠れない一族』という本をご存じだろうか。成毛さんのブログにもあるように、とんでもない展開を見せる非常に面白い本だった。『眠れない一族』にはある年齢に達すると原因不明の不眠症が発症し、やがて衰弱死してしまう原因不明の病気が多発するイタリアの一族が登場する。衰弱していく様子は本当に残酷で、「自分の家族でなくてよかった」と無責任に安心したものだが、自分も何かの一族なのだ。
自分たちが何の一族かを知るための方法は色々あるが、最近はその選択肢が急速に増えているようだ。アメリカには個人向けの民間DNA検査サービス企業が多数あり、数百~数千ドル程度の金額で自分の遺伝子を読むことができる。遺伝学の権威である著者は偽名を用いて、3社(23&Me, deCODE, Navigenics)のテストを実際に受けて、その品質を確かめている。各社で若干のバラツキはあるものの、これがなかなか侮れない。検査結果の読み方や、それへの対処方法は簡単ではないので、興味を持った人は本書を読んでから検査をするかしないかを決めた方が良いだろう。
本書には様々な病気の原因となる遺伝子が紹介されている。乳がんやアルツハイマーのような病気だけでなく、浮気や犯罪という行動に関わる遺伝子も特定されつつある。科学者の間で合意が得られているものもあれば、議論が続いているものもある。刑務所に入る確率が16倍(アメリカの場合)に跳ね上がる遺伝的危険因子があるとは知らなかった。そして、まさか自分もその危険因子を持っているとは思わなかった。とはいえ、これを読んでいる人のおよそ半数もその因子を持っているのでご注意を。
本書のタイトルは『遺伝子医療革命』とあるが、取り扱う範囲は原題の『The Language of Life』の方が適切だろう。遺伝子と病気の関係だけでなく、人種や脳、老化との関係性にも焦点が当てられている。また、遺伝子科学に馴染みのない人のために巻末に付録があり、この分野初挑戦の人にもオススメできる。