世の中には真の意味で、役に立たない本というものがある。あらゆる本は役に立たない、という議論もあるが、そんな深遠なことじゃなく、見た瞬間に役に立たないとわかる本、ばかばかしさやくだらなさを乗り越え、「役立たずな方向」に、全力で、一生懸命、真剣に突き進む本たちのことだ。最近なら『醤油鯛』もすばらしいが、ここにまた一冊、そんな愛すべき本が誕生した。
試験に出ないのである。しかも「出ない順」である。
ちなみに最初の単語、すなわちもっとも出ない単語はsalmon carpaccioである。carpaccioって英語か、というツッコミは脇に置き、例文は下記だ。
Bob laughed so hard that the salmon carpaccio came out of his nose.
ボブは笑い過ぎてサーモンカルパッチョが鼻から出ました。
皆さん、大事ですから暗記して下さい。
対象は大学受験ではなくTOEIC。基本はサラリーマンの会話である。
Bob secretly replaced the assistant manager’s treasured Chocorooms with Chococones.
ボブは係長が大事にしていたきのこの山を、こっそりたけのこの里に交換した。
あまりに酷い。号泣する係長の姿が目に浮かぶ。みなさん、これで、「Chocorooms」(きのこの山)と「Chococones」(たけのこの里)を覚えましたね。
What did you do with the client list?
I inserted into the section chief’s bottom cleavage
「顧客リストどこやった?」
「課長の尻の割れ目に挟んでおいたわよ」
この例文で覚えるべき単語は言うまでもなくbottom cleavage。もう忘れられないはずだ。
本書の単語は下ネタが多くを占めるが、戦争、兵器ネタが結構含まれているのも好ましい。
Could you do an army crawl with me past the station tonight? It`s dangerous there.
今晩ご一緒にほふく前身どうですか? 駅近くに危険地帯を見つけたんですよ。
きりがないので、これぐらいにするが、これらはまだ穏やかなほう。例文が過激になればなるほど、あるいはくだらなくなればなるほど、思わず、掲載された英単語を覚えてしまう(そして覚えても役に立たない)。
twitterでは人気を博しているが、本書はしっかりとネイティブのチェックを受け、また渾身のイラスト、さらにネイティブの発音が聞けるCDまで付いている。暗記し、CDを繰り返し聞けば、「無駄な努力」という、日本における英語学習の本質を体感することができるだろう。
ちなみに、版元は今HONZ的に注目の飛鳥新社。朝会でもなぜか飛鳥新社の本が次々登場し、皆で、飛鳥新社はいったいどうしてしまったのか、と話題になっていたのだ。
下記ラインナップを見ればわかるように、そこには驚くべき「書物多様性」がある。貧すれば鈍すという言葉のとおり、業界が縮小すればするほど、ベストセラーの二番煎じや、一定の読者を確保しやすい安直な企画に流れていき、さらに読者が離れてゆく、という悪循環が生じるが、そんななかでのこのラインナップは、まさに「神保町の奇跡」である。編集もスゴイ(というかちょっとオカシイ)が、営業もエライ。『精密立体 ペーパーバイオロジー』(下記参照)とか、どう売ろうか思わず頭を抱えたことだろう。その苦労は察するに余りある。
三葉虫やアノマロカリス、ロバート・フック顕微鏡などのペーパークラフトが作れてしまう、ディープすぎる一冊。私が朝会で嬉々として紹介したが、その頃すでに成毛眞はアノマロカリスを作っていた。
村上浩の琴線にも触れる一冊。海洋調査のリアルな実態も面白かった。
東えりか絶賛。レビューはこちら。よくぞ翻訳出版した! 著者インタビューももうすぐ出します。
こちらは久保洋介が心惹かれた一冊。
いいですね〜。足立真穂が朝会で紹介。