ここ最近のビジネス書のトレンドの一つに、名著を噛み砕いた本というのがある。きっかけは200万部を超えるヒットとなった『もしドラ』あたりにあるのだと思うが、おととし発売された『プロフェッショナルマネジャー・ノート』がヒットしたことなども要因の一つになっているのかもしれない。今年に入ってから出たものだけでも、『「超」入門 失敗の本質』、『企業参謀ノート』、そして今日紹介する『成功のゴミ箱の中に 億万長者のノート』がある。
これらの本に共通しているのは、現在も原著が読み継がれているが、少し固かったり、ボリュームがあったりして、読むには少しハードルが高いという点だ。『失敗の本質』、『企業参謀』は、どちらも興味があるけれど、私も原著を読むのをためらっている。HONZの読者であればなんてことはないのかもしれないが、ビジネス書をあまり読まない人にとっては、あの佇まいをみただけで躊躇してしまうというのはよくわかる。そういった人には手軽にエッセンスを学べるのでおすすめである。
さて『成功のゴミ箱の中に 億万長者のノート』の話をしよう。本著はマクドナルドの創業者レイ・クロック自伝を噛み砕き、幾つかのエピソードからビジネスに使えるエッセンスを抜き出した本である。日本を代表する経営者である、柳井正、孫正義の両氏が原著から大いに学び参考にしたということで、冒頭での解説をおこなっている。
レイ・クロックがマクドナルドを創業したのは52歳のときである。これを聞いただけでも年齢は関係ないんだなと思える。なにをするにも始めるのに遅いなんてことはない。それまで彼はミキサーのセールスをしていた。セールスの腕も超一流で、セールスに対する姿勢や考え方も大いに参考になるだろう。マクドナルド兄弟からフランチャイズ権を買取り、マクドナルドのチェーン展開を始めたのも、そうすればミキサーがたくさん売れるからという理由だったそうだ。それがこんな大きな商売になってしまうのだから人生というのはわからないものだ。
レイ・クロックの言葉を幾つか引用しよう。
「私にとっては仕事が遊びそのもの。
野球をして得るのと変わらない喜びを仕事からも得ている。」
売れるものを最大限の努力で売る――それが商売なのだ。
どちらも本著で私が感銘をうけた言葉である。仕事とは、商売とはといったことを深く考えさせられる言葉である。私も仕事は遊びだと思っている。なのでプロフィールには「本屋で遊ぶ書店員」と記述している。働くというより遊んでいるという感覚が大きいからだ。そして売れるものを最大限の努力で売る。これは商売の真髄を言い表していると思う。売るために最大限の努力をあなたはしていますか?そうきかれたときにYESと即答できる人になりたい。ことあるごとにこの言葉は自分に投げかけたいと思う。
ビジネスで忙しく本を読む時間があまり取れないという人や、エッセンスだけを取り入れたいと思う人には、この本はオススメである。この本だけでも十分に学べるところは大きいし、価値があるのは確かだ。しかし、そこで終わらせてはいけない。ぜひこの本を読んだら原著にもあたってほしい。伊坂幸太郎の『モダンタイムス』という小説にこんなセリフがある。
人生は要約できねえんだよ。(中略)もしそいつの一生を要約するとしたら、(中略)結婚だとか離婚だとか、出産だとか転職だとか、そういったトピックは残るにしても、日々の生活は削られる。地味で、くだらないからだ。でもって 「だれそれ氏はこれこれこういう人生を送った」なんて要約される。でもな、本当にそいつにとって大事なのは、要約して消えた日々の出来事だよ。それこそが人生ってわけだ。
本も同じだ。本当に大事なことは要約して消えたところにあるのだから……。
HONZの読者は紹介したノートではなく、初めからこちらを読んだほうがいいかもしれない。こちらを読んでからノートを読んで、エッセンスをビジネスに生かしたほうがHONZらしい気がする。