あれから1年が経った。3.11、あの日あなたはどこにいましたか?多分、この問いは何度も聞かれただろうし、尋ねもした。私は確定申告の帰り道、道路を歩いているときに激しい揺れに座り込んだ。電柱が撓み、電線が大縄跳びのようにぐるりぐるりと回っていた。
彩瀬まる『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』は、25歳の新人女性作家が一人旅の途中であの震災に遭遇してしまった体験記である。福島のJR常磐線新地駅で停車中、地震は来た。動かない電車に見切りをつけ、二駅ほど先の相馬に住んでいると言う、偶然となりに座った女性と電車を降りて歩き出す。
新地駅は海から500メートルほど。コンビニで買い物をして外に出ると、町役場から津波警報の放送が流れた。振り向くと遠くで地面がうごめいている。彼女たちは高台へ必死に駆け上る。町が、走ってきた道が水に呑まれる。死ねない、死ねない、彼女は思う。
避難所で一晩を過ごしたのち、見も知らぬ家族に家に来るよう誘われる。安堵も束の間、命からがら逃げた先で今度は原発事故を知る。情報操作を肌で感じ、息をするのも恐ろしい。原発から25キロの地点で彼女は動けない。
とにかく逃げ延びることだけを考えた4日間を書いた第1章は、小説新潮5月号に掲載され、大きな反響を読んだ。
その後の2回の福島訪問で、当時お世話になった人々を訪ね無事を喜ぶ。災害ボランティアで家屋の解体除去に入れば人の住んでいた痕跡の重さにたびたび手が止まる。その土地に思いを寄せながら、お礼にもらったタマネギの放射能が怖くて持って帰れない。そんな自分にまた落ち込む。
思えば幸運に幸運が重なっていた。常磐線の線路脇で火事がなければ、電車が走っているときに地震にあっていたかもしれない。隣に近くの駅に住む人がいなければ、歩き出すのが遅れたかもしれない。避難所で出会った女性が、声をかけてくれなければ、いつまでも寒い学校に、たったひとりでいなければならなかった。
2010年に「女による女のためのR‐18文学賞」を受賞したとはいえ、まだ個人の本が一冊もない新人作家のノンフィクションである。しかし彼女の視線は小説家のものだ。ノンフィクションと私小説の違いをうまく説明できないけれど、彼女は思いを綴っていく。
それは「淡々と」ではない。間逆の形容詞をつけたいけど言葉が見つからない。情報が書かれているのではなく、若い女性が出くわしてしまった災難を、どう回避したかが丁寧に記されているのだ。感謝、後悔、恐怖、心配など生の感情があらわで、胸がぎゅっと痛くなる。彩瀬まるは体中から「読んでほしい」という気を発して、本書を書き上げたと思う。
この本が代表作と言われないように頑張ってね、と最後にエールを送る。
(このレビューは「NEWS本の雑誌」に加筆したものです)
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この子供たちの将来が幸せに、と祈る。
いろいろ考えさせられた一冊。西川きよしではないけれど、足元の小さなことからこつこつとやっていこうと思う。
もしかすると、この地図が一番恐ろしいかもしれない。