民藝とは、いまから1世紀ほど前に、思想家の柳宗悦らがつくった言葉である。日本が近代化し、機械生産に巻き込まれようとしていた時代に一石を投じたもので、時代に対するアンチテーゼのようなものが始まりであったという。
地域の素材や特性をいかし、昔ながらの手法で作られた日常の生活道具 ― 焼物、染織、漆器、木竹工などに光をあてる。そんな民藝の精神に、今ふたたび関心が集まっているのだという。その注目のポイントは「つたなさの技法」というもの。与えられたレールの上をスマートに生きることよりも、ぎこちなくとも一つ一つの人や物との出会いを自分たちの感性で創造していく、そんなところにあるそうだ。
本書は、そんな民藝というものを現代風に再解釈した一冊。考えてみれば、関東大震災と世界恐慌の合間に生まれたこの言葉に、今注目が集まるのも偶然ではないだろう。
とりわけ本書で強調されているのは、「見る」という行為における「眼の力」だ。自分の日常の全体を、ある種のバランスのもとで把握できる眼の力。これこそが民藝の一番の魅力であるのだが、ある種の「型」になってしまったようなことを、いかに「自己化」していくのか。その主体的な問いかけに、周囲から共感が寄せられるかどうかの生命線が存在するそうだ。
自己を突き詰めていくことが、自己満足に終わらずに、結果的にも他者にも開かれる。そんな技法には、FacebookやTwitterにおいてもシェアという形で共感が広がっていくための大きなヒントが隠されていそうだ。
ヒトとモノとの関係が変わりつつある昨今、モノを見るまなざしはどのようにあるべきか?そんなことを考えさせてくれる良書である。