前作から1年と少々、ファン待望の本作を原著の出版からたった3ヶ月というスピードで、しかも1,400円という翻訳モノとしては破格の低価格で出版してくれたことに感謝。
本書の物語はサブプライムローンの裏で大儲けした人々に迫った傑作『世紀の空売り』のために行ったインタビューを振り返るところから始まる。「物語」とは言っても、本書は当然ノンフィクションだ。統計だらけのスカウト戦略だろうが、CDS、CDO等の金融用語が飛び交うサブプライムローンだろうが、ヨーロッパの国家財政危機だろうが、この男の手に掛かれば目の離せない一級の物語になってしまう。
漁師まで投資銀行家になったアイスランド、公務員天国ギリシャ、じっと耐えるアイルランド、秘密の性癖を抱えたドイツ。金融危機の震源地アメリカから放たれたブーメランが、ヨーロッパでどのように暴れまわったのか、ルイスお得意の飽きさせない語り口でこれらの国で起こった金融バブルの発生とその崩壊が綴られていく。
一口にバブルと言ってもその中身は様々であり、その浮かれぶりから各国のお国柄が透けて見える。「八千万人もいる国民を、どうやって一般論で語れるの?」と言うアシスタントの意見ももっともだが、各国の反応は実に特徴的だ。ドイツ人の意外な趣味や馴染みの薄い国の不思議な習慣も知ることができ、金融に興味の薄い人でも十分に楽しめる。なんとアイスランドでは、工場を建てる前に“妖精がいないこと”を証明するためにお金が掛かるらしい。
『ブーメラン』なのだから行きっ放しで終わるわけにはいかない。アイスランドに向かう前にルイスが”I’ll be back”と言っていたのかどうかは分からないが、シュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガー前カリフォルニア州知事のところにこのブーメランは帰ってくる。
読了後は誰もがブーメランの次の行き先が気になり、最も身近なあの国のことを思い浮かべるはず。今更かもしれないが、三菱東京UFJ銀行が国債急落シナリオを作成したことを朝日新聞が報じている。次回作が楽しみなような、怖いような。