新潮社には「波」、岩波書店には「図書」、吉川弘文館には「本郷」など、老舗の出版社は月刊PR誌を発行している。たとえば「波」の場合、自社の新刊書評だけでなく、海堂尊や高橋秀実などによる連載を10本掲載している。A5版128ページ。電車の中で読むのには最適の重さと体裁だ。3年間で2500円。1冊70円。これで送料込みなのだ。もちろん、本屋の店頭で無料で手に入れることができるけれど、定期購読してしまったほうが手っ取り早い。本書は筑摩書房のPR誌「ちくま」に現在も連載されている、佐野眞一「テレビ幻魔館」の40回分をまとめたものだ。テレビをつけっぱなしにして仕事をしている、気骨の大ノンフィクションライターによる激辛エッセイだ。
2008年11月号では小泉チルドレンを引き合いに出し、佐藤ゆかりの白すぎる歯並びを見て「終電車の死美人」を思い出し、ファラ・フォーセット風の髪型を死守する片山さつきは「妖怪人間ベム」を思い出す。猪口邦子を見ると「おてもやん」を歌いたくなるのはなぜだろうとこき下ろす。あはははは。
2009年1月号では林家一門の御曹司たちをこき下ろし、制御不能なリビドーを抱えているとして、泰葉こそが林家三平を襲名するべきだと持ち上げる。これだけでもニヤリとできるのだが、途中でデヴィ夫人のコメントに対して「はあ、左様でございますか。スカルノの妾(正式には第三夫人だったそうだが)だっただけの分際でマスコミをさんざん利用してきたのは、どこのどなたでしたっけ。」と切りかかる。とばっちりである。わはははは。
じつは、連載開始からしばらくはこのような芸能テレビネタが続くのだが、後半になるとシリアス度が増してくる。鳥越俊太郎を「ジャーナリストというより、インテリ風味のテレビタレント」と言い切り、その鳥越から「ふぬけ」といわれたテレビ局そのものに激辛の目を向けるようになる。もちろん40編読みきりだから、著者には悪いがトイレに置いておくと丁度良い。わははと笑って快便快便。