中国でお尻を手術。マル。 “ 中国でお尻を手術♪ ” ではない。そこまではんなり楽しい感じではない。 “ 中国でお尻を手術www ” は、一部に受けそうだがビミョーだ。 “ 中国でお尻を手術しましたが、何か? ” でもないだろう。やっぱりマルだ。思うに、マルには情熱が含まれている。今の日本(というか俺)に足りない情熱が。ポリープ切除の時に中国人看護師から挙がった「好(ハオ)!」の掛け声が。女性と付き合いたくて僧をやめたチベタンの少年の気持ちが。ゴキブリが出ないというデマを信じて部屋を借りた昆明で、中国語を勉強して、空心菜の炒め物を注文できるようになった時の気持ちが。
昆明の早朝四時。もう二十代も終わりも見えてきているものの、仕事も収入もまるで安定していない。その上、妻の隣で寝ゲリして、未明にスーツを洗う自分---。
おれは大丈夫なんだろうか。
本書の裏面のオビに書かれていた文章である。むしろ、このオビでゴーしたミシマ社は大丈夫なんだろうか?(いい意味で) 表紙サイドのオビには高らかに「創業5周年特別企画」と赤文字で書いてある。というか、こっちサイドにも小さく「寝ゲリ」と書いてある。寝ゲリ推しなのか。私のまわりにも、強いシンパシーを感じてくれそうな人間が若干1名いる、、、いやいやいや、私はもう本を読んでいるので、著者の近藤さんがどれだけショックだったか、みんなにヒミツにしたかったか知っている。しかし、創業5周年記念の推しであれば致し方ない、一肌脱ごう。いや、脱がせて下さい。今の私には情熱が足りないのだ。失敗してもいいのだ。きっと、寝ゲリなんて、昨今の世界の問題にくらべたら大したことないんだ!
そもそも、近藤夫婦の出会いからして情熱大陸(ちょっと無理があるか)オーストラリアだった。20歳で初めての海外一人旅をしていた近藤さんは、現地に留学していたモトコさんと出会い、日本に帰ってから毎日電話するようになった。国際電話が高かった頃だ。そして毎日メールした。まだ日本語のメールが打てない頃、ローマ字だ。そして、その日に起きた出来事を別途毎日ファックスした。そして、3ヶ月後、もう連絡しないでくださいと言われた。即ち、はっきりとウザがられたのだ。逆境である。半年後、もう一度会いに行くと言ったところ、来ないでと言われた。いよいよ逆境である!そこから不屈闘志、じゃなかった(著者の)近藤雄生さんがどうなったか、どうして世界を旅する遊牧夫婦になったのか、そのあたりは前書『遊牧夫婦』に書かれている。奥さんの夢だったオーストラリアのイルカ・ボランティア生活、楽しそうだなあ。
『中国でお尻を手術。』は、そんな近藤夫妻のシリーズ第2回、東南アジア・中国編だ。前作ではオーストラリア→東ティモール→インドネシアときた。本書のはじまりはタイの奥地で1日18時間の瞑想修行からだ。読書は禁止、と言われて逆に読みたくなって部屋で読みまくり、絶食期間と言われてこっそりポテチを食す。ヒマすぎて3日でギブアップだ。カナダから来て僧侶になった若いプラ・ノア師匠とのコントラストがなんとも良い感じである。プラ・ノアさんの人生について詳しくインタビューしているあたりが憎い。227もの戒律を守って生活しつつも「すべてから自由になり、何も心配する事がなくなった」というノアさん。一方、近藤さんはトイレがヤバイ(悪い意味で)、「ファッキン・テラボー」らしい、と超心配しつつバスで中国に入国だ。タイからまずはミャンマーに潜入、ラオスを経由して着いた先は昆明。そこで創業5周年記念イベントが発生する。トイレは関係なかった。「すべてから自由になり、何も心配する事がなくなった」。ノアさん。全ては繋がっています。昆明では部屋を借りて、雲南師範大で中国語の勉強を始める。そうか、オーストラリアも中国も、部屋を借りるの簡単なんだなあ。料理のあまりの安さとおいしさに「すげえ幸せだなあ・・・・・」と何度も言い、しばしばお腹を下し、中国語の先生と反日で言い争う。おお、なんか、どんどん中国語が上達している。雲南省からチベットに潜入。モトコさんが撮った写真が載っている。すごい。悠大だ。行ってみたいなあ。通りで二胡を弾く人にインタビューする。意外なバックグラウンド。せつないなあ。そして、夫婦は上海に渡る。
この本の不思議な感じはなんなんだろう?と考えた。行ったこともないのに自分が旅しているみたいだ。ゆるーくカジュアルに書いてあるからなのか、旅の途中で定住している場所があるからなのか。それとも、コンプレックスをもったり、いろいろ失敗しながら旅を続けているからか。本書の終わり方も、ふと気づいたら電車のキップを盗まれていて、焦って手がすべり盛大にコーラをこぼして平謝り、友人には先に行ってもらい、さてどうしようと困っていたら、ダフ屋からキップを買えてよかったよかった、でもこの人どこからキップ調達してるんだろう。まあいいや、再見!という感じだ。なんか、いかにもありそう。。次の本では中国を出てユーラシア大陸を横断するらしい。今度はどんな事件が起きるのだろう。楽しみだ。それまでしばらく、再見!
そんなミシマ社は、自由が丘にあるほがらかな会社。内藤順のレビューにも登場します。
こちらは自転車旅行。学生のときから旅を始めて、それがきっかけで就職が決まったりして、山田さんの人生、自転車のおかげでトントン拍子。そんなつもりはなかったはずなのがおもしろいです。