新年早々、目出度がってばかりいられない方も多いのではないだろうか。旧年末の忘年会に正月休み、重ねに重ねた暴飲暴食・不摂生。このまま新年会シーズンへとなだれ込まんとする今この瞬間、頭をよぎる一抹の不安……。
風呂場の姿見と向き合って、腹に手を当てて一思案、「今年こそ健やかな一年を」と思い立った方におススメしたいのが本書だ。栄養士の観点から、食事が身体や仕事のパフォーマンスに与える影響を解説。読者に社会人を想定し、アドバイスがコンパクトにまとめらた読みやすい一冊に仕上がっている。
とは言え、あまりに約束事が多くては煩雑で覚えるのも大変。長続きするにはシンプルな原則が一番だ。著者によれば、前向きな考え方、集中力と決断力を兼ね備えた「できる人」に必要なのは、良質のたんぱく質、ビタミンC、炭水化物、ビタミンB群と鉄分。これらの栄養素をバランスよく含んだ食事を組み立てるには、
第一の皿: 主食 (炭水化物: ごはん・パン・麺類)
第二の皿: 主菜 (たんぱく質: 肉・魚介類)
第三の皿: 副菜 (野菜・果物類)
第四の皿: 汁物
という4つの皿を思い浮かべよう。それぞれの皿にきちんとした食材を載せる、それを1日3食くり返すことができれば栄養のバランスが自ずと取れるという寸法だ。
他にも食習慣改善のためのアドバイスが本書には数多く盛り込まれているが、もちろん体のつくりは十人十色。健康の悩みも人それぞれなので、自分に合うと思ったものを柔軟に取り入れていけば良いだろう。
かく言う私も、マメに自炊するほうで体型も痩せ型。食生活に問題はないと過信していたが、本書に気付かされ実践し始めたことも少なからずあった。
ここは恥を忍び、新春特別企画「HONZ健康相談室」のコーナーと言うことで、「一問一答式」で私のケースを本書に諮ってご紹介しよう。
Q: 朝は食欲が湧かないので、大抵は菓子パンと牛乳で済ませています。でも、脳のエネルギーになる糖分が補えているんだから、問題ないですよね?
A: いいえ、”大いに”問題があります。
まず、朝に食欲がないのは生活習慣からくるものです。その対策としては、寝る3時間前から食べ物を口に入れないこと。そして、食べる場合には、脂質が少なく、消化しやすいものを選ぶこと。脂質の量が分からない場合には、パスタ・スクランブルエッグ・ソテーといった「カタカナ食」より、うどん・ゆで卵・煮びたしといった「ひらがな食」を選びましょう。
また、朝食に菓子パンを食べるのは今すぐやめるべきです。
菓子パンの糖分により血糖値を急激に上昇させる毎日を積み重ねていると、糖尿病になりやすくなります。血糖値を抑えるために膵臓はインスリンを分泌しますが、膵臓を酷使することによってインスリンが徐々に不足するようになり、やがて血糖値を抑えることができなくなるからです。
Q: そ、そんな……。では、理想の朝食メニューを教えてください!
A: 日本人の食性にマッチした理想的な朝食は「地味飯」です。
地味飯というのは、たとえば、ご飯、味噌汁、魚の焼き物、野菜の煮物、生卵、焼き海苔など、いわば小さな温泉旅館や民宿の朝ご飯に出てくる和食メニューです。地味飯は、炭水化物・たんぱく質・繊維質のバランスが非常によくとれています。
準備が難しければ、ラップで小分けし冷凍保存したご飯をレンジでチン、味噌汁はお湯を入れるだけのインスタント、主菜は夕食のメインディッシュの一部や納豆で代替、そこに昨夜の残り物の副菜を一品つければ、もう立派な地味飯です。こうした朝食をとっていれば、たとえ昼食と夕食が乱れたとしても栄養バランスを崩しにくくなります。
また、朝の果物(柑橘類やキウイ)は投資効果が非常に高くおススメです。
朝フルーツを食べるだけで、酵素が体の中をキレイにしてくる上、ビタミンCも十分に取ることができます。サプリメントやビタミン剤も効果がないわけではありませんが、栄養素は食事で取ることで一番よく身体に吸収されるのです。また、外食のグレードを上げるよりも、スーパーで果物を買って数日かけて食べるほうがずっと安上がりですよね。
Q: なるほど、さっそく朝食は果物付きの地味飯に切り替えます。
ところで、職場でも夕方近くになると小腹が空いてくるので、甘い物やスナック菓子についつい手が伸びてしまいます。気分転換にもなるし、問題ないですよね?
A: 「甘い物でリフレッシュ」は単なる”刷り込み”です。
甘い物を食べることで、体内では急激に血糖値が上がり一時的に疲れが取れたような気分になります。しかし、今度は血糖値を抑えるために膵臓が大量のインスリンを分泌し、血糖値が急激に下がる結果、甘いものを食べる前よりも血糖値が下がってしまい、集中力が続かなくなるばかりか、よけいに疲れを感じ、けだるくなってしまうのです。
Q: あらら、自分ひとりでは気が引けるので周りの同僚にもよくお菓子を勧めていましたが、とんだハタ迷惑だったようです(汗)。
でも、仕事で疲れて、どうしても気分転換したいときには何を食べればいいんでしょうか?
A: その答えはズバリ、たんぱく質を多く含んだ食品です。
たとえば職場で一休みしコンビニに足を運ぼうと思うのであれば、「ゆで卵」「温泉卵」「冷奴セット」「サラダ+たんぱく質(鶏肉・卵・シーチキンなど)」「干した魚介類のおつまみ」「枝豆」などの購入をお勧めします。そうすれば、気分転換のあとの仕事がはかどるだけでなく、身体にとっても非常にいい。しかも甘い物に比べて太る心配もありませんから一石三鳥です。
他にも本書では、フツーの社会人にありがちな食生活の過ちについてのアドバイスが満載だ。
「仕事が立て込んでいるときにコーヒーを飲むのはNG」「スポーツドリンクは仕事の効率を下げる」「ゼロカロリー飲料は身体に悪い」といった衝撃の真実や、目の疲れや物忘れ・自己嫌悪に陥ったときなどお困りポイントの局所にダイレクトに効く食材の耳寄り情報も得られる。読者にとって、食習慣を見つめなおす示唆が得られること請け合いだ。
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さて、健康と言って皆さんに思い浮かぶのはどんな言葉だろうか。「メタボリック」「カロリー・オフ」「ダイエット」「美魔女(?)」。とかく「外見」が取りざたされ、偏りのある食事節制や極端なトレーニング・メニューが喧伝されている嫌いはないだろうか。
古来、日本人はサプリメントなど取らなくとも、手に入る食材を加工・調理することで健やかな生活を送ってきた。今さら自給自足に立ち返れと言う気もないが、伝統食など先祖が残してくれたオイシイ知恵を活かさない手はないだろう。
また、「外見」のみならず自らの「体の内」から発せられる声に耳を傾けつつ食生活や習慣を継続的に見直すことで、体に現れる良い兆しや変化を見つけるのは楽しいもので、皆さんにも是非ともお勧めしたい。そんな思いから、今回はこちらの本もあわせてご紹介したい。
日本人の食に対する探究心を余すところなく伝えてくれる。発酵学・醸造学で有名な著者・小泉武夫先生の日本食に対する愛情と食いしん坊ぶり満載の語り口も素晴らしく、この一冊でどんぶり飯三杯はいける!
料理研究家・辰巳芳子の著作を読むとき、私は「食べることは生きること」だと思い出す。食を介し、人と風土はつながっている。ぜひこちらのレシピを参照に、「いのちを支えるスープ」をいただきましょう。