出版不可能だったバカ企画達

2011年11月27日 印刷向け表示
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サイゾー等のインタビューで、「一日一企画必ず立案するノルマを自分に課している」と、宣言する事によって更に自分を追い詰め、結果的に実際本当に一日一企画以上、立案し続けているハマザキカクです。私と会った時にその前日に何を立案したか聞いてみて下さい。必ず答えられるようにしています。元々、入社以来「こんな本があればいいのになー」と妄想に耽る事が多く、自ずと一日一個以上のアイデアは思い付いていたので、どうせだったら全部記録してみようかと思ったのが2009年の12月1日。

 

そしてカレンダーに記録し始めたら、空白が発生してしまうのがイヤなので、必ず一日最低一企画は立案する事にしました。これを二年間、欠かさずやり続け、私のカレンダーから企画案を出力すると、1429企画ありました。一日約2企画立案していた計算になります。もちろん全てが一冊の単行本になる程のテーマではなく、コラム程度にしかならない物も多くあります。また妙案だったとしても、実現不可能な荒唐無稽なアイデア企画も多くあります。

 

編集者が出版の企画を立てるパターンとして、題材や執筆者を見付ける「発見系」と、編集者がアイデアを思い付いてから書ける人を探す「発案系」があると思っています。「発見系」の例としては前回の「ハマザキ書ク」で、書籍化不可能な超絶サイト達をご紹介しましたが、今回の「ハマザキ書ク」では今まで私が思い付いてきた、「書籍化不可能な妄想止まりの企画」を私の企画リストから幾つか抜き出して、紹介したいと思います。

 

■『トンデ持ち込み 編集者を困らせた誇大妄想の企画集』

まず一番やってみたいけど事実上刊行するのが難しいのが、弊社や私に持ち込まれた「トンデモ企画」をまとめた本です。たまにメールや郵便、あるいは直参で企画を持ち込まれる事があります。ただし他の編集者に聞いてみても分かるとおり、持ち込み企画の多くが客観性を欠いた、独りよがりの物です。

 

中には一種の病的な「発明妄想」の状態に陥っているか、誇大妄想の産物としか思えない企画を、自信満々で一方的に捲し立てられる事があります。「邪馬台国の本当の場所を突き止めた」とか「ユダヤ資本による陰謀を暴いた」等がありがちな定番テーマですが、中には全く荒唐無稽過ぎて、逆にその発想自体が驚きで、一歩距離を置いて見ると笑えてしまうけど、本人はいたって本気、という企画案と出くわした事が何回かあります。

 

それ自体を「変な妄想企画」の集大成として『トンデ持ち込み』(トンデモ+持ち込み)というタイトルでまとめて出せば、本になるので著者にとっても本望だし、別の角度から見て、精神医学上、貴重な資料になるかもしれず、変な持ち込みに失笑している多くの編集者の共感を得られるでしょう。ただしこの様な行為は企画を持ち込んでいる人達に失礼なので、妄想止まりです。

 

■『ブスユニバース』

文字通り全世界のブスを集めた写真集。「ブスユニバース」Facebookコミュニティを設け、全世界から「自称ブス」の女性達の写真の投稿を呼びかます。もしくは『ブスユニバース 日本代表』と日本に限定した号を作り、「ミスユニバース」という、明らかに欧米基準に偏り過ぎた美女観に対して異論を提示し、なおかつ美人が尊ばれる世の中の風潮にも警鐘を鳴らした企画です。もちろん被写体となる女性達は自ら応募してきた人だけで、その様な「自称ブス」を、ふんだんな予算を使い、綺麗に着飾らせて、豪華なスタジオでロケを敢行し、美人に見える様に撮影し直した写真集です。

 

■『同じ原稿を別の編集者が編集した本』

編集者によって同じ著者が書いた企画でも、相当本の出来上がりに違いが出てくる事は確実です。著者が書いた原稿がそのまんま印刷されて刊行される訳ではなく、数々の疑問点を記し、補足説明や加筆をお願いしたり、逆に間違いを指摘して削除したり、無駄を削ったりします。

 

ただし結局世の中に出るのはその一冊だけなので、元々の原稿から編集者の手を経てどのぐらい変わったのか、比較検証する手立てはありません。そこで全く同じ原稿を他の編集者が携わったらどのぐらい内容が変わるのか、それを再現した本を同時に二冊あるいは複数冊一度に出したいと思った事があります。これは『装丁道場 28人がデザインする『吾輩は猫である』』という本からの観念連想です。この本は『我が輩は猫である』を別の装幀家がデザインするとしたら、どうなるかを集めた見事なアイデア企画です。

 

■『タダ飯ュラン(タダ飯+ミシュラン)』

派遣村が話題になった頃、配給食がテレビに映されましたが、不謹慎な事にかなり美味しそうに見えました。そこでこうした炊き出しで振る舞われる食事、実際に美味しいのかどうか、三ツ星で評価してみたいと思いました。炊き出しだけでなく、タダでありつける食事に評価を下した、ミシュラン風の本を作りたいと考えたのですが、人の善意に対して許されざる暴挙だと思い、断念というか元々やる訳がありません。ただし後日、比較的似た主旨のコラムが雑誌で行われていたと人から聞いた事があります。

 

■『パンゲア大陸の時から国境の移動の変遷を動画で表した世界地図』

前回の「ハマザキ書ク」で最も反響が大きかったのが、「世界地図で見る世界史」でした。この作成者とは未だに連絡を取る事ができていませんが、この世界地図の変遷を紀元前3000年から更に遡り、個別の大陸に分離する以前のパンゲア大陸の時から、世界各国の国境の移り変わりを描いた本は出来ないだろうかと考えた事があります。そしてその変遷の動きをFlashで再現してみるのです。

 

日本列島の輪郭自体がグニャグニャ動きそうです。ヴァチカンやモナコなど極小国の輪郭を断層から推定する事はできるのだろうか等、妄想に耽ってしまいます。しかし明確な国境を突き止めるのは不可能だし、紙で再現するのも不可能ですね。2000年分の東アジアの国境の動きをFlashで再現したサイトは以下ですが、これを地球誕生後からやってみたらどうかな、というところから思い付きました。

 

歴史地図2000

 

■『イスラム原理趣味 (共産趣味インターナショナル番外編)』

社会評論社の人気ラインナップに『共産趣味インターナショナル』シリーズがあります。「共産趣味」というのは「共産主義」のパロディで、共産主義文化を懐古趣味的に鑑賞するというジャンルで、今までに『アルバニアインターナショナル』や『ニセドイツ』といった本が刊行されています。そこで「社会民主趣味」や「無政府趣味」「資本趣味」等が観念連想として容易に思い浮かびますが、かなり危険性の高いのが『イスラム原理趣味』です。

 

■『バカ少伝説 少なすぎる料理を告発』

一時『バカ盛り伝説』『バカ辛伝説』が立て続けに刊行されましたが、その便乗本として思い付いたのが『バカ少伝説』です。私は2000年頃、首都圏の食べ放題を制覇しかけていた程の食べ放題ラーなのですが、普通のレストランに入って、あまりの少なさにブチ切れる事が多々あります。そうした量が少なすぎるレストランを集めて糾弾したグルメガイドです。少ない飯は許せません。着想は西原理恵子さんの『恨ミシュラン』からも来ています。

 

■『世界のヌーディストビーチ』

いつか行ってみたいヌーディストビーチ。しかし行く前にどういうヌーディストビーチがあるのか知りたい、行く前に候補を吟味したい、その様な事を考えていた時、『世界のヌーディストビーチ』というガイド本を作ればいいのだと気が付きました。似たような主旨で日本では混浴のガイドブックが幾つか出版されていますね。ただし全世界のヌーディストビーチを取材するのが費用的に難しいのと、裸になっている人は本に掲載される事を拒むだろうから、結局ただのビーチの写真集になると思い、想像だけで終わりました。後日、ロケットニュースで世界のヌーディストビーチの一覧が発表されたのですが、この程度でいいかもしれません。

 

世界のヌーディストビーチ10選

 

■『汚い東大生のノート』

『東大合格生のノートはかならず美しい』が話題になっていた時に思い付いた企画です。成績優秀者のノートは必ずしも美しくないのではないか、というところから着想を得ました。東大生の中には汚いノートの人もいるはずなので、その汚いノートをスキャンして集めたら面白そうです。「そもそもこれは文字なのか?」と思うぐらい汚い人もいると思います。本人しか読解出来ないようになっているのでしょう。あとたまにノートを一切取らない天才がいますよね。秀才東大生のノートは綺麗で、天才東大生のノートは実は汚いのではないかと推測しています。

 

■『実は横からではなく上からページを開いていく付箋の様な形をした本』

『Fが通過します』という佐藤雅彦さんによる、信じられない造本の本があります。「世界一細長い本」として有名で、箸入れの様に細長いのです。これの連想なのですが、正面から見るとカバーがあって普通の本に見えるのですが、何とページをめくるのは正面からではなく、真上の「天」から、そしてカバーだと思っていたのは、本の「小口」にカバーっぽいイラストが印刷されていただけというトリックの本です。青幻舎のパラパラブックシリーズと製本の方向が同じで、そのページ数を正面から見ると単行本ぐらいの高さに仕掛けた物です。ただそれがやってみたいだけです。

 

■『鏡文字で印刷した本』

学生時代、暇潰しに鏡文字をノートに書いていたら、いつの間にか修得してしまいました。そこで実際書くだけでなく、全部文字が逆になった鏡文字の本を出したいと思ったのですが、ただそれがやりたいだけで内容はないので妄想止まりです。意味がないものを印刷した本としては暗黒通信団『円周率1000000桁表』という奇書がありますね。

 

■『親の顔が見て見たい 極悪人・犯罪者の親の写真集』

よく犯罪者や不良を見ると「親の顔が見てみたい」と言いますが、古今東西の犯罪者や悪人の親の写真を集めただけの写真集です。親の罪は子の罪ではないように、この罪は親の罪でもないと思うので、妄想で終わりです。

 

■『右翼街宣車写真集』

私のアイデアという訳ではないのですが、私が勤める社会評論社という、世間ではちょっとした社会派として認知されている出版社から書籍化するのは難しいのが『ただいま街宣中』という、右翼の街宣車を集めたサイトです。何だか見てて興奮してきます。ただしこれは色んな意味でアンタッチャブルですね。

 

……と以上、まだまだいっぱいありますが、今回はこの辺でやめておきましょう。私と会った事がある人はご存じかと思いますが、談笑している間も常にその話題がいかに企画と結び付くか、本にするとしたらどうなるのかにしばし話がずれてしまって、会話にならないと迷惑がられています。「ハマザ企画」あるいは「ハマ the 企画」、毎日色んな企画を考え続けます。

 

補足:ハマザキカクは「有隣堂ヨドバシAKIバカ」シリーズ等、今まで数々の書店フェアをプロデュースしてきましたが、一度ブレーンストーミングした時に一気に書き出した書店フェア案が私の公式サイトに載っています。

 

ハマザキカク公式サイト 書店フェア案

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