2022年8月10日、北九州市小倉駅近くの旦過市場に隣接する「昭和館」という映画館が焼失した。もらい火ではあったが、創業83年の歴史を見てきた映写機もフィルムもスクリーンも、たくさんの映画スターのサインや小説家の手紙も何もかもが燃えて無くなってしまったのだ。
残ったのは「昭和館①②」というネオンサインとチケット売り場の表札だけ。
祖父が創業し、父から後を継いだ三代目館主の樋口智巳さんは焼け落ちる瞬間に立ち会って呆然とするばかりであったという。
本書は「昭和館」復活までの477日のドキュメントである。振り返ると、焼け落ちてから行動に移るまで、よくこんなに早く決断できたものだと驚かされる。それほど再開を熱望されていたのだ。
応援団はすぐに組織され、仲代達矢さん、奈良岡朋子さん、リリー・フランキーさんをはじめとして、映画監督や小説家など数え切れない人から手伝いたいと声が上がった。
とはいえ昨今の映画館はシネコンがほとんどで、単館上映の映画館は風前の灯火である。私も映画は映画館で観たいので、岩波ホールが閉館したときの喪失感は忘れられない。
だが「思い」だけでは再建は難しい。資金の調達、これが一番の問題だった。
それが北九州市からの強い希望と土地を所有する不動産会社の決断で先が見えたのだ。クラウドファンディングも始まる。問題は山積みだが、目の前のことを一つずつクリアするしかなかっただろう日々が胸に迫る。
私は一度だけ小倉を訪れたことがある。独特の音楽や文学、絵画が根付いている不思議な街だと思った。昭和館もそういう文化の中で育てられた映画館なのだろう。
12月8日、再開がきまった。プレオープンは抽選で無料招待するそうだ。
上映される映画はもちろん「ニュー・シネマ・パラダイス」である。(週刊新潮12月7日号)
*8日のプレオープンには大勢のファンが集まったという。参照:YahooNews
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本書を読んで岩波ホールでもう一度映画を観たい、という気持ちが強く沸き上がった。好い映画館だったようなあ。