国連が世界の総人口が80億人を突破する推計を発表した。こうした中で人類が近い将来に直面する「滅びのシナリオ」を25項目取り上げ、「科学的根拠」と「回避する方法」を提示したのが本書である。
コンピューターサイエンスで修士号を取得した著者は、ノースカロライナ州立大学の工学起業プログラムを主催する。全米のラジオやテレビ番組で難しい内容を平易に伝える科学ジャーナリストとしても定評がある。
そもそも「人類滅亡」とは、地球史的にどのような現象が起きるのだろうか? 地球科学の観点から生物の絶滅とは何かについて先に振り返っておこう。
地球は46億年の歴史をもっている。今から6億年ほど前から地上にはたくさんの種類の生物が出現した。こうして多様な生物が現れてから、地球の歴史は化石を用いて時代を区切ることができるようになった。古生代・中生代・新生代というのは、生物の種類が大幅に置き換わった時期をもとにつけられた名前である。
すなわち、それぞれの時代の最後に生物が一度に死滅するという事件が起きたのだ。「大量絶滅」と呼ばれる現象だが、地球上に出現した9割以上の生物は絶滅の道をたどる。逆に言えば、生物は絶滅することで新しい種に生存の場を提供してきたとも言える。
一般に、大量絶滅は生物界をとりまく外部の急激な環境変動によって起こる。それまで繁栄していた生物には大きな打撃をもたらすが、そのおかげで新しい種が生息できる環境が作られる。
生物界では「ニッチ」と呼ばれる生態的な地位は絶えず変化している。これに従って、新しい環境に適応できる種が生まれる一方、古い種は次々と姿を消してきた。
こうした繰り返しは不変に起きてきたが、一方で生物の絶滅は一定の割合で発生しているわけではない。非常に多くの種が短期間に絶滅する場合と、ゆるやかに絶滅が進行する場合とがある。
前者が「大量絶滅」と呼ばれるものであり、地球の歴史では過去5億年のあいだにすべての生物種の5割〜9割が短期間で死滅する事件が何度か起きてきた。
さて、約30万年前に地上に誕生したホモサピエンスは、知性を獲得し地球環境を改変することに成功した。さらに産業革命以降の人類は、化石資源を大量消費しながら活動域を拡大してきた。
そして現代の人類が直面する「滅びのシナリオ」は、地球上で近未来に起こりうる激甚災害によって進行する。これに関して著者は「人為的な災害」「自然災害」「SF世界が現実化した災害」の3つに分け、シナリオごとに可能性が高い原因と結末を具体的に提示する。
「人為的な災害」としては現在世界中で問題となっている地球温暖化の暴走がある。また「自然災害」ではスーパーボルケーノの噴火、大地震、巨大津波などが取り上げられているが、これは現代の日本にとっても喫緊の課題だ。
さらに生命の歴史38億年の中で5回ほど起きた生物大量絶滅に関する解説と将来予測がある。こうして見ると、激甚災害テーマに地球科学が数多く関与していることが改めて浮き彫りにされるだろう。
さて、最終パートの「SF世界が現実化した災害」では、ロボットによる世界征服とナノボットがテーマに挙げられる。現在急速に進展しているAI(人工知能)が人間界を支配するかどうかを考える際のシミュレーションとしても、非常に興味深い。
本書は我々が日常生活では考えもしないような破滅的なシナリオの中にいることを、如実に突きつけてくる。そうした災害について想像力豊かにイメージし、かつ現在知りうる限りの科学的なメカニズムを理解し、それらのシナリオが起こらないための方策を具体的に考える際の参考になる。
これは近未来の日本で最大の自然災害と予想される「南海トラフ巨大地震」への対処と全く同じ構造を持つ(鎌田浩毅著『知っておきたい地球科学』岩波新書)。
したがって破滅が近づく中でもいたずらに恐怖にかられるのではなく、危機を冷静に分析し「正しく恐れる」ことが喫緊の課題となる。できるだけ科学的にリスクを評価し、もっとも効率的で重点的な方策を立てなければならないのだ。
著者はこう述べる。「私たちが皆、同じ目標を共有し、私たちの惑星の未来のために懸命な投資を行うことができれば、それは間違いなく実現できる」(本書64ページ)。
実際、自然災害のパートで取り上げられた「小惑星の衝突」に関しては、確率的に見ると人類は対処する必要がない。こうした的確な取捨選択を行い、人類滅亡を防ぐための本当に必要な対策に集中するため、大いに役立つだろう。
本書はカラーの図版を多用し初心者でもビジュアルに理解できる工夫を随所に施した、地球災害に関する優れた入門書でもある。近著では小川和也著『人類滅亡2つのシナリオ』 (朝日新書)も興味深い。「大地変動の時代」を賢く生き延びるブレーン・ストーミングを行う際に、本書とともに薦めたい。